しにたい、と思った。最近出来たクレープ屋さんで買ったクレープを片手にうきうき気分だったわたしは何を考えたのかスキップの中に華麗な横回転を加えて船に前進していた。三回目の回転をして着地した時に足首がゴキッと悲鳴をあげた。わたしもギャッと悲鳴をあげた。あまりの痛みに両手を投げ出して前のめりに倒れる。勢いよく地面と接吻をぶちかました。誰だ初キスはレモン味なんて言った奴は。砂利のざらざらした感触しかねえ。いたた、と顔を上げた時わたしの目の前に三角形のものがぽふっと落ちてきた。なにこれ?それは微かに甘い匂いを漂わせている。うん?これにはすごく見覚えも嗅ぎ覚えもあるぞ。これって触ったら柔らかいでしょ。人差し指でつつく。むにょ。間違いない。これはさっき買ったばかりのクレープだ。転んだ時に吹っ飛ばしてしまったんだ。さ、3秒ルール。だがもう既に10秒は過ぎている。これを口に運べばルール違反だ。まだ一口も食べてないのに。寝転んだ、つまり前のめりに倒れたままの形でクレープを呆然と眺めた。道行く人がわたしを見てくすくす笑う。クレープが食べれない。みんなが笑う。ここで冒頭に戻る。しにたい、と思った。


「立てるかい?」


倒れるわたしの目の前にスッとてのひらが現れた。骨張った大きなそれはたぶん男のひとの手だ。まだまだクレープを眺めていたかったけど視線だけで上を見る。そこには確かに誰かいたけど逆光で顔が見えない。髪が金髪。なんかバナナみたいな髪型だ。なにこのひと。ごめんなさいわたし今それどころじゃないの。それなのにバナナはしゃがんでわたしと視線を近くした。わあ、悪人面だ。バナナはわたしをジッと見つめたあと面白そうに目を細めた。それから、何故だか右拳を差し出した。


「面白いもん見せて貰ったよい」

「…え」

「だがもうスキップはやめた方がいい」


バナナはわたしの前にチャランとお金を置くとその場を去って行った。お金をじっと見つめる。ひい、ふう、みい。これはクレープ余裕で十個は買えるよ。あのひと何者だろう。見ず知らずのイタイ女にお金をあげるなんて。貴族なのかな。悪人面だったけど。わたしは地面にさよならをして立ち上がる。砂をぽんぽん払った。クレープには蟻がたかり始めている。さよならクレープ。わたしは新しいクレープを買うことにします。君は昔の存在。過去のクレープなの。わたしは前に進むよ。背中を押してくれるよね。貰ったお金を握り締めて来た道を戻る。スキップはもうしないでおこう。うん。せっかくだからクレープふたつ買ってスモーカーさんのお土産にしよう。最近会議続きで苛々してるし。そしてさっきのバナナの話をしてあげよう。余ったお金でいつもより高いジュースでも買おうかな。





Special Thanks iduki!
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