「あれ?キャプテンは?」

「起きね。昨日徹夜で本読んでたっぽい」


朝。キャプテンを起こしに行ったはずのシャチがひとりで食堂へやって来た。欠伸混じりに呟いた理由を聞いて納得する。キャプテンが徹夜で読書に没頭するのはよくあることだ。そっかそっか。徹夜明けなら、起きてくるのはお昼頃かなあ。サラダに目玉焼き、ハンバーグにヨーグルトと朝ご飯をテーブルに並べていくと先に来ていたクルーはみんな席に着き始めた。焼き上がったばかりのテーブルロールをバスケットに山盛りに入れる。これを計3つ。朝だとか昼だとか関係無い、奴らはいつだって大食いだ。水とミルクとオレンジジュースを用意してから、わたしはパンッと手を叩いた。


「残さないように!」


それは合図で、それぞれいただきますだの旨そうだの言いながら料理を口にしていく。あ、やべ。コーヒーの用意してない。ペンギンは食後に必ずコーヒーを飲む。無いと怒られてしまう。急いで用意しなきゃ。厨房に引っ込んでコーヒーを落としつつ、ベポ用にデザートのイチゴを出しておいた。あーっと、練乳あったかな。

仕込みに準備に健康管理。コックの朝は大忙しである。



















キィ、と扉が開いた音がして顔を上げる。お。起きて来たな。ぼうっと突っ立ったままのキャプテンを見て小さく笑う。太陽はとっくに真上で1時間前くらいにみんなは昼食を済ませた。やっぱり起きて来るのお昼頃だったな。珍しいことじゃない、徹夜明けのキャプテンはいつもこうだ。ジャガイモの皮剥きを一旦ストップして厨房に行く。アイスコーヒーを手にテーブルに戻れば、まだどこか虚ろな目をしたキャプテンが椅子に座っていた。うわ、濃い隈が出来てるし。


「はい。スープいる?」

「…パンもくれ」

「分かった」


キャプテンは起き抜けでもちゃんとご飯を食べる。ただし猫舌気味なところがあるため熱いものは控えている。普段はいいんだけど、起き抜けキャプテンにホットコーヒーは厳禁だ。前に知らないでキャプテンにホットコーヒーを出したシャチがキレられて生首にされていたっけ。悪意は無かったのに可哀想な奴。ちゃんと温度調整をしたスープとクロワッサンをキャプテンに出した。キャプテンは欠伸を溢しながらスプーンを手にしてスープを口に運ぶ。うん。よし。しっかりそれを見届けてからジャガイモの皮剥きを再開した。


「今日の夜はコロッケするからね」

「おう」

「ポテトサラダも作るよ」

「あぁ」

「フライドポテトもするよ」

「芋ばっかりじゃねェか」

「ちゃんとお肉も焼くよ」

「おかわり」

「はい」


あっという間に空になった皿を受け取ってもう一度厨房に行く。知らず知らず頬が緩んだ。残さず食べて貰えてその上おかわりされるのってゆうのはコックとしてすごく嬉しいことである。でも2杯目はそんなに食べないだろうから気持ち少なめに注ぐ。温めるために着けていた火をカチリと消してテーブルへ戻り、目を丸くした。キャプテンが顔からテーブルに突っ伏していたのだ。


「…まだ寝足りないなんて」


思わず笑ってしまった。小さく静かに規則正しく上下する肩。キャプテンはテーブルに突っ伏して、眠っていた。お腹が満たされて眠くなってしまったのだろうか。だからってスプーン握り締めたまま寝なくても…。実は、これも珍しいことじゃない。ご飯を食べに起きてくるんだけど、食べたらそのまま寝てしまうことも、時々ある。こんな可愛らしい人が海賊でしかも2億の賞金首なんだから驚きだ。


「キャプテン起きて、スープ持ってきたよ」

「…ん」

「あんまり寝ると目が腐っちゃうよ、ほら」

「…あぁ…」


返ってくるのは生返事。全く、食堂は寝るところではないのに。一向に起きようとしないキャプテンのおでこをぴんっと弾いた。それから、キャプテン用に用意したブランケットを肩から掛けてあげた。眠る顔をじっと見つめる。こうして寝てたら海賊だなんて分からないくらい外見は普通の人間なのに。無防備なキャプテンを眺めてなんだか誇らしくなった。だってこれはわたししか知らないキャプテンの顔。普段は見せない部分。食堂で働くコックの特権だ。キャプテンの隣に座る。おでこにかかる前髪を指先で払うと、キャプテンは小さく身じろいだ。


「起きたらちゃんとコロッケ食べてよね」


とびっきり美味しいやつ作るんだから。そう宣言してジャガイモを掴んだ。

仕込みに準備に健康管理。それから、寝坊助のお世話。コックの1日は大忙しだけど、やめられないね。





そんなグラニューデイ





Special Thanks nokko!
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