おやつの時間。食堂でエースとサッチとマルコさんと、それからリジィと五人でコーヒーを飲んでいたら、マルコさんがいきなり『ぽんっ☆』と可愛い音をたてて、なんと子どもになった。


「「ぶううううううッ!」」

「汚ねっ!馬鹿兄妹こっち向いて吹くんじゃねェ!」

「ま、ママママルコさ…!?」

「かっっっ…可愛い!マルコすっげェ可愛い!」

「エース!?目は正常か!?」

「てゆうかなんでマルコさんが赤ちゃんに!?」

「マルコ頼む抱っこさせてくれ!」

「エースはちょっと黙れ!おいマルコ、大丈夫か?…マルコ?」

「…なっ…なん、な…!」

「やべェ超パニクってる」

「リジィ!おまえおれになんかもっただろい!」

「まあやだ、ばれちゃった」

「はぁ!?ちょっとリジィ、盛ったって何!?」

「ふふふ、死ぬような薬じゃありませんよ」

「ふざけんな!すぐもどせ!すぐだ!」

「ぶっ!マルコ、舌っ足らずで間抜けだぜ…!」

「しねりーぜんと!」

「ひゃはははは!こりゃおもしれェ!」

「なぁマルコ、一回でいいから抱っこさせろよ〜!」


─────取り敢えず、なんだこのカオス。




















つまり、リジィの言い分はこうだ。超即効性のアンチエイジング効果があるビタミン剤を作ったまではいいがちゃんと完成したかどうか自分で確かめるのは怖いからマルコさんで試してみた、と。にっこり笑ってごめんなさいと言うリジィに全く反省の色は見えない。てゆうかアンチエイジングって老化を防ぐことじゃないの?老化を防ぐどころか若返ってんじゃん。しかもかなり。マルコさんは今あたしが幼女時代に着ていた白いポロシャツにピンクのタオル地で出来た半ズボンを穿いている。女の子用だから可愛らしいデザインなのは仕方ない。我慢して頂いた。少し伏せられた瞼、ぽってりした唇、むちむちした頬っぺたに、さらさらな金髪。…うん。パーツひとつひとつ、しっかりマルコさんだ。ちなみにマルコさんはエースの膝にいてサッチから頬っぺたをつねられている。


「おー柔らけェ」

「ひゃめろおおお…!」

「あー和む」

「へめぇらあああ…!」

「…リジィ、マルコさんちゃんと元に戻るよね?」

「はい。失敗作なので効果もすぐ切れるでしょう」


なんかすごく哀れに見えてきた。エースは目をきらきらさせてマルコさんを見つめている。エース、ブラコンだからなあ。弟と重ねてるんだろうなあ。エースのブラコン(シスコン)っぷりは身を持って体験している為マルコさんの気持ちはよく分かる。恥ずかしいし屈辱的なのだ、この年齢になって子ども扱いされるってのは。年齢差が激しいだけにマルコさんのプライドはズタズタだろう。エースがマルコさんに頬っぺたをすりすりしてるのを見て本気で哀れに思った。これは助けて差し上げねばなるまい。エースの腕からひょいっとマルコさんを奪う。エースが残念そうに眉を下げ、サッチがおもちゃを奪われたことにチッと舌打ちした。


「マルコさんが元に戻るまではあたしが面倒を見ます」

「じゃあおれも!」

「エースはダメ。マルコさんが可哀想になる」

「じゃあお」

「サッチは絶対ダメ。何が何でもダメ」

「全否定かよ!」

「リジィは、反省しなさい」

「ふふ、分かりました」


マルコさんをしっかり抱き上げて三人に言い放つ。幼女時代に色々大変な思いをしたあたしだから、きっとマルコさんの世話が出来るはず。マルコさんもあたしが一番マシだと判断したのか腕の中でぐったりと力を抜いた。うーん、ショックだろうなあ。子どもになっちゃったのも自分より遥かに年下の女に抱っこされちゃうのも。エースに頬っぺたすりすりされたのは一生トラウマになって残っちゃうかも。可哀想に。

リジィは仕事に、サッチは渋々夕飯の仕込みに、エースはサッチの手伝いにとそれぞれ行動を始めた。あたしは取り敢えず、マルコさんの部屋に行くか。マルコさんも自分の部屋が一番落ち着くよね。


「部屋行きますか?」

「そうだねい…たのむよい」


食堂を出てマルコさんの部屋に向かう。マルコさんのご要望により『誰にも見られたくない』とのことだったので、なるべく誰にも会わないように急いで行動した。よっぽど嫌なんだなあ…まあそれが普通か。途中ビスタとすれ違って、咄嗟にマルコさんを隠したけど呼び止められて、慌てて走って逃げてやった。

マルコさんの部屋に入ってマルコさんを床に降ろす。マルコさんははあああ、と盛大な溜め息を吐き出した。そのまま椅子に向かった…はいいが、いかんせん身長が届かなかった。足置きに足を掛けて登ろうとしたら頭が重かったらしく真後ろにずっこけた。ぶふっと吹き出しそうになるのを必死で堪える。本人は一生懸命なんだから笑っちゃいけない。でも、なにこれ超可愛い。マルコさんを抱っこしてベッドに座った。


「…がきのからだはふべんすぎる」

「あたしの苦労が分かるでしょう?」

「わかりたくなかった…」

「まあすぐ戻るらしいですからそれまでベイビーライフを楽しんで!」

「たのしめるかよい…なあ」

「はい?」

「すまねぇ…ねむい…」


ぽそぽそ呟くとマルコさんはむちむちなおててで目をこすった。マルコさんがあたしと同じ三歳児になったと考えると、赤ちゃんみたいなもんだしなあ。おやつ後でお腹もいっぱいだから眠たくなっちゃったのかも知れない。マルコさんをしっかり抱き直して背中をとんとん叩く。マルコさんは意外と抵抗しなかった。

あたしが幼女時代、マルコさんには随分世話になった。だから次はあたしが役に立ちたい。少しでも力になりたい。マルコさんの頭をそっと胸に寄せた。赤ちゃんは心臓の音を聞くと安心するらしい。マルコさんの目がとろんと虚ろになってきた。


「寝ていいですよ」

「…サッチには…」

「誰にも言いません。マルコさんが女に抱っこされたまま寝ちゃったなんて」

「…もとにもどったらおまえ、おぼえて、ろい…」


あ、赤ちゃんのくせになんて怖いんだ…!背筋が震えてしまったじゃないか。手のひらにじっとり冷たい汗をかいたけど気にせずそのままマルコさんの背中を撫で続けた。数分もしないうちにマルコさんはずっしりと重たくなり、すうすうと可愛らしい寝息をたて始めた。赤ちゃんって眠ると重たくなるってほんとだったんだ。にしても、あのしっかり者のマルコさんが寝ちゃうって、なんかすごい貴重じゃない?カメラがあればいいのに。マルコさんのさらさらな髪をそっと撫でた。

どんな形であれマルコさんと一緒にいられるなら、とか。不謹慎かな。


「…あたしも寝ようかなあ」


子ども体温でマルコさんがあったかくて、あたしまで眠くなってきた。マルコさんを起こさないように気を付けながらベッドに横になる。今だけ。今だけでもいいから、マルコさんを独占してやろう。でも赤ちゃんだと物足りないから、目が覚めた時には元に戻ってるといいな。微睡みに従って、あたしは瞼を閉じた。





















なんだか少し肌寒さを感じて意識が浮上する。布団を求めてぱっと手を動かしたら、何やら温かく弾力のあるものに触れた。緩く脈を打ってる。これは…人の、肌?え?ひとのはだ?えっ?ハッとして反射的に目を開けた、ら。


「…よォ」


バツが悪そうに笑うマルコさんが、小さく呟いた。あたしは何も反応出来ずただただ固まるしかなかった。驚き過ぎて声が出ない。そうだあたし、マルコさんと眠っちゃったんだ。どうやら薬の効果が切れたらしくマルコさんは元の身体に戻っていた。戻っていたから、問題なのだ。マルコさんを抱っこして眠ったから距離が近いし、何より、何よりも。マルコさんの胸に触れたままの手に、じわりと汗をかいた。


「ッッッ……!」

「叫ぶなよい!取り敢えず下を向くな目を瞑れ、すぐ着替える。いいな?」


叫びかけたのをマルコさんの手によって遮られた。声が出せない為こくこくと頷く。幼児服を着ていたマルコさんは大人に戻ったことにより服が破けてしまい、全裸だったのである。だ、大丈夫。下は見てない。上半身だって普段から晒してるようなもんじゃん、慌てる必要はない。

マルコさんの言葉通り目を瞑った瞬間だった。


「マルコちゃんおまんまの時間でちゅよー!」

「マルコ!今日はおれの膝で飯…食っ…」


サッチとエースが、部屋に突っ込んで来たのは。

ニヤニヤ笑っていたサッチが一瞬にして青ざめエースから距離を取った。青ざめたのはマルコさんも同じで、慌ててブランケットを腰に巻き付けている。こ、これはまずい。エースの目には『妹が裸の悪漢に襲われている』と映ってしまったんだろう。キラキラしていたエースの目が一瞬死んだ魚のような目になり、それから、ゴッと燃えた。


「マルコオオオオオ!」

「待てエース!誤解だ!おれは何もしてねェよい!」

「おれの妹に何しやがったこの変態がアアアアア!」

「何もしてねェって言ってんだろい!」





「避難しようぜ」

「…うん」


マルコさんには悪いけどああなったエースはあたしでも止められない。巻き添えを食わないうちにあたしとサッチは部屋をこっそり抜け出した。

後日、リジィがまたアンチエイジング効果のある薬を作っただとか言い出したのは、また別の話。





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