絶えることのない断末魔が鼓膜をビリビリと揺らす。生暖かい鮮血が頬を濡らす感覚と言ったら気持ち悪いとしか言いようがない。人を斬る感触が掌に染み付いていく。嗚呼気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!手をぎゅっと握り締めて転がる死体の上を一目散に走り出した。その間もずっと悲鳴が響く。助けてくれと呻く声がする。怖い、吐き気がする。足を掴んだ手が恐ろしくて刀を突き刺すと噴き出す赤い液体。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。無我夢中で走っていたから前に人がいたなんて気付かず私は勢いよくぶつかった。慌てて刀を構えると見慣れた顔が映る。


「慌てちゃってどうした?」

「さ、すけ」

「うわ、顔真っ青」


ぽんぽんと頭を撫でる大きな手が熱いのは血で濡れてるからだ。瞬間的に胃がカッと熱くなって食道がチリチリと痛む。本気で吐きそう。ついでに泣きそう。見上げた佐助の顔も返り血で真っ赤だった。血に濡れてなお飄々と笑う佐助が怖くて固く目を伏せた。気持ち悪い、気持ち悪い。もう見たくない。見たくないのに。その場に座り込んだ私に視線を合わせるように佐助も膝を折る。


「どうした?」

「こわい、の」

「怖い?」

「気持ち悪い、死体ばっか、もう」

「最近戦続きだもんね」

「いつまで、こんなの」

「甘ったれるな」


佐助の手がぐっと頭を押す。いきなりの重力に驚いたけどなんとか押し返したらまたぽんぽんと叩かれた。それが何故だかひどく温かく思えて涙が零れた。泣きたくなんてなかった。悲しいのは私じゃない、死んで逝く人達なのに。残される人達なのに。

いつまでこんな時代が続くんだろう。血で血を洗うような日々に嫌気がさしてくる。こうも毎日人を殺して正気でいられる訳がない。もう嫌だ。殺したくない。殺されたくない、死にたくない。だけど戦場で殺さない理由など無いのだ。


「大将が天下を取れば戦も終わる」

「…おわる?」

「終わるよ。幸せな時代になる」

「だといい、な」

「だから泣きなさんな」


真田の旦那が見たらびっくりするよ。篭手を外して裸の指先で涙を拭われた。温かい。人の体温ってなんでこんなに安心できるんだろう。でもこのぬくもりの正体も所詮真っ赤な血なんだ。気持ち悪いとしか思えない血で安心するなんて皮肉だ。私達は結局血生臭い中でしか生きていけないの?そうしていたら佐助が言うように幸せな時代が来る?その時代が来るまで私達は殺し続けなきゃならないのだ。お館様や幸村様の為にずっと、ずっと。
















明日は自分かも知れないと怯えて






101030
夜風にまたがるニルバーナ
昔のものを修正してうp
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