エースの部屋の壁には一枚の手配書が貼ってある。手配書とは思えないくらいの笑顔で映るその少年はモンキー・D・ルフィといって、エースとは三つ離れた弟らしい。左目の下の傷と麦わら帽子はわんぱく小僧に見えるだけで、とても海賊の船長だとは思えない。しかも3億ベリーって結構強いんじゃないだろうか。手配書をじーっと見つめる。エースの弟。エースの弟、にしては、似てないなあ。エースのそばかすは受け継がれなかったのか。髪もエースは緩くウェーブしてるし…。手配書とにらめっこしていたらドアがガチャリと開いた。


「あ、エース」

「何してんだ?」

「ルフィくんみてた」


そこにはエースがいて、手配書を指差したら嬉しそうにニッと笑った。エースってほんとにルフィくん好きだなあ。エースはあたしを抱き上げるとそのままベッドに座った。胡座をかいたエースの足の間に座りながらも手配書を眺める。


「ルフィがどうした?」

「エースとにてないなあっておもって」

「…おれの方がかっこいいってか?」

「はいはい」


きらーん、と口で効果音をつけながらエースはかっこよく笑って見せた。エースがかっこいいのはよく知ってるけどそれを言うのはなんか悔しいからやめた。エースは、確かにかっこいい。ルフィくんは笑顔だからなのか可愛い印象が強い。そう言えばルフィくんも能力者だったっけ。兄弟揃って海賊で能力者で、親御さんは一体どんな教育をなさっていたんだろう。うむうむと考え込むあたしのほっぺたを突然エースがむに、とつねった。


「そりゃあ似てねェさ」

「んむ?」

「おれとルフィに血の繋がりなんかねェからな」

「…う?」


ほっぺたをつねられていた所為で間抜けな声が出てしまった。それは一体、どういうことなんだろう。エースの手を剥がして振り返る。エースは笑っていたけど、どこか悲しそうだった。


「お前はちっちゃいから分からねェかも知れねェが、おれは…おれの血は、穢れているんだ」

「……」

「でもルフィは、生きる意味も理由も無いんだと思っていたおれを、必要だと言ってくれた」


正直、エースが話している意味が、よく分からなかった。でも遮ることは出来なくてただ黙った。エースの血が穢れてる?エースの血筋のこと?お父さんかお母さんが、どうかしたのだろうか。エースを見つめる。エースは笑っていた。笑っていた、けど。こんな顔をするエースは初めて見た。胸の中がもやもやしていく。訊きたいけど訊いちゃいけない気がする。こんな顔をするエースは、見たくなかった。


「血の繋がりは無いがルフィはおれの大切な弟だ。お前もでかくなって酒が飲めるようになったらおれと盃を交わそう」

「さかずき?」

「そうだ。盃を交わしたら兄弟になれるんだ。おれとルフィもそうして兄弟になった」


楽しみだな!とエースは笑ってあたしの頭を撫でた。さっきまでの悲しい雰囲気は微塵も感じさせない。エースはいつも明るくて元気で、そんなにひどく怒ったりしないし優しいし、いい人だなって思ってた。強い人なんだって思ってた。でも、違うんだ。誰だって弱い部分はある。きっとマルコさんにもサッチにもリジィにも、親父にだってあると思う。あたしはエースのそんな部分に気付いてあげられていなかったのだ。

短い両腕を伸ばしてエースの首に抱き着く。エースはいつもと同じようにあたしの背中を撫でた。


「エース、あたしね」

「ん?なんだ?」

「エースがどんなひとでも、だいすきだよ」

「……え」

「エースがしんだらかなしいから、だから」


あたしもルフィくんといっしょ。ルフィくんがエースを必要だと言ったようにあたしもエースが必要だと、告げた。

生きる意味も理由も無い人間なんかいない。でもエースはそういう風に悩んだ頃があったんだ。それって、そんなのって悲しい。苦しい。エースは必要だ。エースがあたしを支えてくれなかったらあたしはきっと駄目になっていた。血筋なんか知らない、エースはエースだ。エースはあたしの大切な大切なお兄ちゃんなんだから。エースがトントンと背中を撫でる。いつものエースの手。エースのあたたかい、てのひら。


「…ありがとな」

「うん」

「あ、サッチがおやつって呼んでたぜ。てゆうか呼びに来たんだった、今日プリンだって」

「え、はやくいこう!エースぜんそくりょく!」

「ラジャー!」


エースにひょいっと持ち上げられて首に乗っかる。テンガロンハットをあたしが被りエースの頭を掴んだ。肩車の状態でエースが全速力で食堂に突っ走るこの光景は珍しいことではない。風を切りながら、早くエースと盃を交わしたいなあと思った。

食堂に着いたら空の皿があって「遅かったねい」とマルコさんがスプーンをくわえていた。





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100917/TEN
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