嘘だって思った
あの人が私を、

目が覚めて頭を乱暴に掻く。ぼんやり天井を眺めてから身体を起こした。外は明るいからきっと時間帯は朝か昼くらいなんだろうけど船がやけに静かだ。こんな時間になるまでみんなが寝てる訳は無い。一体どうしたのか。目を醒まそうと冷たい水で顔を洗うと心地よかった。フーと息を吐き出して部屋を出る。んーっと身体を伸ばす。昨夜から船は島につけてあって、結構活気ある村があるらしい。いい天気だし今日は島に降りてみようかな。甲板へ向かう途中に食堂を覗いたけどコックも誰もいなかった。みんな島行っちゃったのかな。オヤジはいるだろうけどオヤジにみんなが何処行ったのか訊くのはチョットって感じがする。甲板に行けば誰かいるよね。長い廊下を抜けて甲板へ出る。

船首のところで釣りをする後ろ姿に、息が詰まった。


「おい」

「っわあ!」

「逃げんな。こっち来い」


エース隊長は絶対こっちを見てない筈なのに私が隠れようとしたら素早く呼び止められた。エース隊長って背中に目が付いてるのかな。あの背中の刺青の目がそうなのかも知れない。エース隊長の背中を睨みながらそろりそろりと近付いた。隣まで来るとエース隊長は私を横目で一瞥して釣竿を突き出してきた。…つまり私にも釣りをしろ、と。釣りスキルは皆無に等しいのだけどしろと言われたらするしかない。私は無言のまま釣竿を受け取りエース隊長の隣に座った。


「みんな島に降りた。俺とお前は船番だ」

「え…えぇ!?私も島行きたかったのに!」

「お前が寝過ごすからだろ。もう昼だぞ」


ご最もなお言葉だ。だけど私が寝過ごしたのは夜眠れなかったからであって、夜眠れなかった原因はエース隊長にあって。でもそんなの言えないし。俯きながらエース隊長の横顔を盗み見た。

昨日の夜、エース隊長に告白された。

私とエース隊長はよくふたりで行動する。私がエース隊長の部下なのもあるし齢が近いのもあって私達は仲良しだ。昨日の夜も展望台に登って見張りをしていた。自分の過去や夢、白ひげ海賊団の未来について楽しく語り合ってた。そしたら突然エース隊長が真剣な顔になって「お前が好きだ」って言って。私はびっくりして、びっくりし過ぎて、何も言わず展望台から逃げ出した。だから夜は眠れず今日は寝過ごしたのである。エース隊長と顔を合わせるのは気まずいのに船番なんて…なんでみんな起こしてくれなかったんだろ。あ、私がいつも勝手に部屋に入るなって口酸っぱく言ってるからか。いつもの私の馬鹿。気まずいじゃないか。

エース隊長は何も言わない。もしかしたら昨日のアレは夢だったのかも。でも私にそれを確かめる勇気はない。気まずいなあ、沈黙が痛いなあ。揺れる釣竿を見つめて恐る恐る口を開いた。


「しりとりしませんか?」

「……」

「ひ、暇、ですから」

「…しりとり」


エース隊長にじろ、と見られてたじろいでしまったけどエース隊長は顔を戻してそう言った。よかった、しりとりしてくれるみたい。少しだけ安心して私は身体の緊張を解いた。


「りんご」

「ゴリラ」

「ラッパ」

「パスタ」

「えーと、退屈ですね」

「寝過ごしたんじゃねェか」

「…カカオ」


途中にフツーに会話が混じったけど意外とさらさら続くものである。寝過ごしたのは紛れも無く私だからつい逃げてしまった。にしても、エース隊長は普通だ。少し不機嫌そうにも見えるけどフツーだ。やっぱり昨日のは夢だったんだ。エース隊長が私に告白するとか有り得ないもんね。私変な夢見てたんだきっと。そう思ったら胸がズキンと痛んだ。あれ可笑しいな、なんでだろ。何も言わなくなったエース隊長を見上げる。隊長、オですよ。そう言うと隊長はこっちを向いた。


「お前が好きだ」


一瞬、私の世界から音が消えた。風の音も波の音も鴎の鳴き声も全部消えて、エース隊長の声しか拾わなかった。エース隊長いま、なんて。昨日の夜のことがフラッシュバックする。それからこれはしりとりの続きだと思い直して慌てて顔を逸らした。


「だ…ダンス」

「すげェ好き」

「金髪」

「つか返事くれ馬鹿」

「…カーテン」


逃げれなかった。だからわざとンのつく言葉を返した。それから言葉は返って来ない。エース隊長の顔を見上げるとエース隊長はこっちを見ていて、ばっちり目があった。心臓がどくんと跳ねて息が止まる。声が出ない。何故だか泣きそうになった。どうしようもなく身体が震える。何も怖くないのに、寒くないのに、なんでこんな心細くなるんだろう。エース隊長が顔を歪めた。違う、そんな顔をさせたい訳じゃないのに。エース隊長の手が伸びてきて私の頭をくしゃりと撫でた。触れられたところがじんわりと熱を持って、心地よかった。


「なんで泣きそうなんだよ」

「…びっくり、して」

「嫌なのかよ」


エース隊長の言葉に慌てて首を横に振った。嫌じゃない。むしろその逆なんだ。私はきっとエース隊長が想うより前にエース隊長のことが好きだった。でも私はナースみたいに美人じゃないし戦闘員としても未熟だし何より部下だし叶わない恋だと諦めていた。だからエース隊長に好きだと言われてびっくりしてしまったのだ。それこそ泣きそうなくらいに。ほんとは泣きたい訳じゃない。跳ね回りたいくらい嬉しくて、幸せだ。


「返事、聞かせてくれ」


エース隊長の手を取って頬を擦り寄せる。そしたら、エース隊長が歯を見せて笑った。


「私も、好きです」















「マルコ隊長ー早く登って下さいよー」

「後つっかえてますよー」

「船首に何かあるんすか?」

「まあ待てい。やっとくっついたとこだからよい」

「「「?」」」





(100209/月面の双子)

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