やあどうも、私はタソガレドキ忍軍のくノ一だよ。名前?名前は明かせないよ、忍だもの。因みに今忍んでる真っ最中なのだよ!何処に忍んでるかって?明かせないよ、忍びだもの。…と言いたいところだけど、これは忍務じゃないから別にいいかな。私は今忍術学園というところへ忍び込んでいるよ。ウチの上司の組頭がここの保健委員長くんとやらと仲がよろしいらしくてよく遊びに行くんだけど先日竹筒を忘れたっていうもんで私が取りに来てあげたのさ。組頭は今殿に呼ばれているから身動きが取れないんだ。だから私の出番。さて、組頭が言うにはこの下が保健室らしいんだけど。板の隙間から覗いて見ると深い緑色の頭巾が映った。確か保健委員長くんは深緑の頭巾を被ってる、と聞いた。よし。突撃!


「ちょっと失礼するよ」

「……!?」

「警戒しないで大丈夫。怪しく見えるだけで怪しくないから」


くるりんと一回転して天井裏から床へ着地した。保健委員長くんは私を見ると直ぐ様後ずさって戦闘体勢をとる。おっと待って待って私は戦うつもりはないよ。頭巾を外して両手を上げて見せるけど保健委員長くんは警戒したまま縄標を構えた。警戒心が強いのは忍として素晴らしいことなんだけど、困った。お喋りとかしたかったけど無理みたいだ。にしても組頭が言ってた印象と随分違う。組頭からは『まだ子どもっぽいあんまり忍者らしくない不運な子』って聞いてたんだけど。私の目の前にいるのは子どもっぽくない全然忍者らしい子だ。まあ不運かどうかは分からないけど。


「私はタソガレドキのくノ一だよ。組頭が忘れてった竹筒を取りに来たんだ」

「…タソガレドキ」

「そう。君は組頭と仲良しなんでしょう?」

「…それは私じゃない…」

「ん?君、保健委員長くんじゃないの?」

「私は図書委員長…」


あらら。通りでイメージと違う訳だ。ここは保健室だからね、怪我をした人が来るんだろう。たぶんこの図書委員長くんもそのひとりなんじゃないかね。図書委員長くんは私の素性が分かって少しは安心してくれたのか縄標を仕舞ってくれた。そうそう。忍者たるもの状況判断を素早くするのも良いことだ。上げたままの手を下ろして図書委員長くんに近寄る。その時鉄の匂いが鼻孔を掠めた。よく見ると図書委員長くんのてのひらがざっくりと切れて血が出ている。


「手を出してごらん。あ、警戒しないで。ただの薬だ」

「……」

「私の推測だけど保健委員長くんが不在で手当てが出来ないんじゃないかな」

「……」

「君は無口だねェ」


懐から塗り薬を取り出して図書委員長くんに見せる。図書委員長くんは手を隠して警戒心を剥き出しにしたけどこれは本当にただの薬だから警戒心は無意味だ。塗り薬を指で掬ってもうひとつの手で図書委員長くんの手を取った。図書委員長くんは意外と抵抗しなかった。マメやタコ、傷だらけの手に薬を塗る。ちょっと滲みる薬だけどその分よく効くよ。仕上げに包帯を巻きたいところだったけど流石に包帯は持ってなかった。勝手に保健室を漁るのもよくないし、仕方ない。図書委員長くんの手に私の頭巾を巻いてあげた。


「…これは」

「お風呂は仕方ないけどあまり水に着けないようにね」

「違う、頭巾が」

「おっと」


軽く顎を引く。目の前を手裏剣が通り過ぎ壁に突き刺さった。手裏剣が飛んできた方を見ると少しだけ戸が開いている。んー、まあ、気付いてたけどね。誰かが廊下にいることには。戸が勢いよく開け放たれる。その瞬間にまた手裏剣が飛んできた。今度は背中を反らして避ける。戸が開かれた場所には図書委員長くんと同じ格好をした青年が立っていた。保健委員長くん…じゃないね。保健委員長くんは忍者らしくないと聞いているから。彼は敵意も殺意も剥き出しだ。


「曲者!長次から離れろ!」

「待て文次郎、この人は」

「余所者は帰るかね」

「な…っ、逃がすか!」


スタスタと普通に文次郎くんの隣を通る。文次郎くんは呆気にとられていたみたいだけどハッと我に帰ってまた手裏剣を投げてきた。身体を横にずらして避ける。ヤダヤダ、物騒な子だ。手の中で苦無を構える。腕を振り上げるのと同時に苦無を放ち文次郎くんの袖や裾を柱に縫い留めた。まさかの反撃に対応出来なかったのか目を丸くしている。いやあほら私ってタソガレドキ忍軍じゃん?プロ忍が忍者の卵に負けてちゃあ駄目じゃん。だから余裕たっぷりに笑ってやった。


「じゃあね文次郎くん、長次くん」


文次郎くんが拘束を解くのと私が学園の屋根へ跳び乗って逃げるのは同時。いや、私が一瞬速い。屋根を蹴って学園を出る。文次郎くんが悔しそうに叫んでいたけど聞こえないフリをする。私は曲者なんかではないけどああいう人間には何を言っても無駄なんだよね。山の奥まで来てから初めて足を止める。あ、組頭の竹筒忘れてた。まあ今度自分で取りに行くでしょう。頭巾が無い所為で髪が散らばる。適当に掻き上げてまた足を動かした。機会があればまた行ってみたいなあ、忍術学園。





(100803/にやり)
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