バシャリ、バシャンッ。走る度に水が跳ねる。雨の中走れば当然のことだ。あたしはこの雨の中を走るのが大好きで、雨の朝は自分から朝練を始める。石丸くんは雨の日は筋トレ!って言うけど雨の日こそ走るべきだと思うんだな。だって晴れた日に走ったら暑くてすぐ息切れするもん。この涼しい自然シャワーの中のランニングが1番だ。時間は7:30、道行く人はかなり少ない。最高だね!

最近流行りの好きな歌を口ずさみながら走っていたら前から誰かが走って来た。珍しいな。雨降ってんのに変な人、ってあたしもか。失礼とは思いつつ顔をじろじろ見てしまう。フード被ってるけど男の人だ。こんな時間に何処の高校の人だろ?すれ違う瞬間まで男の人を見ていたら。


「わっ、ぎゃっ!」


雨で濡れて滑りやすくなっていた地面で見事に転んでしまった。うっあ最悪!…あれ?あたし転んだよね?でも体痛くない。雨降ってるから濡れてもおかしくないのに冷たさはないし寧ろなんかあったかい…え?あったかい?この地面柔らかくない?あたしは恐る恐る視線を下にやった。


「……」

「……」

「……」

「…降りてくれないか」

「ご、ごごごめんなさい!」


あろうことかあたしはさっきの男の人を下敷きにしてしまっていたのだ。転んだ時に巻き込んだのかも知れない。うっあほんと最悪だ!あたしは慌てて男の人から降りて土下座した。男の人は無表情。怒ってるのかな?ああああたしのばか!注意して走れよ!


「ほんとに、ほんっとにすみません!」

「いい。気にしていない」

「…あ。これ、よかったら」


ポケットにいれていたミルクキャンディーを三つ取り出して男の人に差し出す。走り終わった後に甘いものを食べるのがあたしの楽しみなのだ。甘いものを食べるような人には見えないけど他に何もないし…。男の人はキャンディーをじっと見つめた後あたしを見つめ、そっと受け取った。


「糖分が不足していた」

「え?」

「有り難く貰う。すまんな」

「は、はい!どうぞ!」

「…泥門か」

「はい!泥門の陸上部っす」


ジャージに『DEIMON』って書いてあったからだろう、男の人はそう言った。そして何かを考えるような仕草をしてゆっくり立ち上がる。その様がなんだか男らしく見えた。改めて見たらがっしりした体してる。格闘技でもしてるのかな。ぼんやり考えていたら男の人の手が目の前にあってびっくりした。なんだろう。訳の分からないままなんとなく掴んだらぐいっと引っ張られて立たされた。すごい力だこの人!身長高いし、何者だろう。


「俺は進清十郎」

「しん、さん?」

「小早川セナに伝えてくれ。俺はまだまだ強くなる、と」


小早川セナってセナのことだよね。セナの知り合いってことはアメフト部の人?そりゃガタイもよくなるわ、なんて考えていたら進さんの目がふっと細くなった。進さんが、笑っていた。


「雨の日も休まずランニングとはいい心掛けだ。だが滑らないよう気を付けろ。糖分を摂取するのも悪くない」


それだけ言うと進さんは走り出して何処かへ行ってしまった。あたしは濡れた所為でぐしゃぐしゃになった頭に触って進さんが見えなくなるまで見つめていた。仏頂面だと思ったけど笑ったら、なんか。とりあえず戻ったらセナのとこ行って進さんの伝言を伝えて、それから進さんのことを訊いてみよう。見上げた空は、いつの間にか雨が止んでいた。









(100710/スパンコールイーター)
昔の作品を修正したもの
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