それは甘くて、
あの声で名前を呼ばれる。ただそれだけなのに身体が浮かぶような心地になる。それから名前を呼ばれたのなら行かなくては、と思って慌てて足を動かした。そしたら自分の足につまずいて派手に転んでしまった。周りにいた隊長や隊員達がゲラゲラ笑う。最悪だ。最低だ。なんでみんなの目の前で甲板と熱烈キスをしなきゃならないのか。恥ずかしさで小さくなりそうになりながら顔を上げる。ああやっぱり。マルコ隊長まで笑ってる。恥ずかしい。消えてしまいたい。マルコ隊長にだけは笑われたくなかったのに。俯いていたらカツカツと足音がした。視線だけを上げたら大きな手が映った。それを辿っていったら顔をくしゃっと歪めて笑うマルコ隊長がいた。
「お前は…何やってんだい」
愛しくて、
マルコ隊長が私に手を差し伸べてる。その手を、じっと見つめる。今マルコ隊長の視界には私だけ。そう思ったら心臓がどくんと強く跳ねた。手を伸ばしてマルコ隊長の手を取る。ぐいっと引かれてあっという間に立たされて、距離が縮まる。すぐ目の前にマルコ隊長がいる。マルコ隊長はまだ可笑しそうに笑っていたけどそんなの全く気にならなかった。私から世界の音が遠ざかる。自分の鼓動しか聞こえない。マルコ隊長の笑う声が耳の奥で谺する。離された手が寂しくて手を強く握り締めた。私、手汗、ひどいかも知れない。マルコ隊長にばれたかな。ああ最悪だ。でも、手を握れたから、少し幸せ。いや、かなり幸せ。マルコ隊長を見上げたら視界が一気に潤んだ。
「…泣く程痛かったかい?」
「ま、マルコ隊長が」
「おれが?」
「マルコが急に呼ぶからこけちまったんだ!」
「うるせェよい」
からかうエース隊長を適当にあしらってマルコ隊長は私を見つめた。私は顔から火が出るかと思うくらい真っ赤になって俯いた。涙が止まらなかった。なんでなのかは分からない。強いて言うなら嬉し泣きだ。マルコ隊長が私を気にかけてくださったのが堪らなく嬉しい。だけどそれを言葉に出来る程私は大人じゃなかった。そしてふと、頭にぬくもり。それがマルコ隊長の手だと気付くのは数秒後。
「お前は笑ってる方がいい」
どうしようもない、
それくらい、すき。
(100623)
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