彼女は私のことが好きだと言う。無口で無愛想で何の面白味も無い私を恋人にしたいと言う。私にはそれが疑問でならない。もしも。もしも私が仮に一般の女だとしたら私は私を選ばないだろう。見目麗しく愛想もあって人当たりのいい男を選ぶものだろう、女というのは。多分。例えば留三郎や仙蔵や斉藤だとか普段から華やかな話の絶えない男とか、そういう奴らに惚れるのであれば分かる。なのに彼女は私がいいと言う。そんな浮わついた話は一度も無かった私でないと嫌だと言う。私以外は有り得ないとさえ、言い切る。私には全く理解出来ない。疑問しか感じない。だから訊いてみた。「何故私なんだ」と。そしたら彼女は表情ひとつ変えず顔を真横に傾けた。そして楽しそうに目を細めた。
「誰かを好きになるのに理由は必要かな?」
「…今は私が訊いている」
「長次が必要であるなら答えようか。幾らだって出て来るよ。そうだね、まず長次は優しい。後輩想いだ。料理だって上手い。それから顔の傷。ミステリアスで色気があっていいね。長い髪も縄慓を操る大きな手もなかなか開くことの無い薄い唇も堪らない。憂いを帯びた目に見つめられたらもう、」
「分かった」
「おや、何が?」
「…もう分かった、から」
「顔が赤いね長次。風邪を召したかな?」
好きになる理由なんてのは後から幾らでも付いてくるものであって、本能的に惹かれていくのが恋なのだ。
確かに理由は要らないみたいだ。いつの間にか、惹かれていたようだった。
(100601/ten)