今日はバレンタインデーということで学園中が賑わっている。賑わっているというか浮かれているというか。くノ一教室は朝からすごいことになっていた。みんなしょくらあとを手に想う忍たまの元へと走って行ったのだ。私の同室の子はタカ丸さん狙いらしいけど大丈夫かな。タカ丸さん狙ってるくのたまかなりいるからな。久々知先輩と鉢屋先輩もモテるんだよね。鉢屋先輩は不破先輩の顔なのにそこんとこどうなんだろうと私は思う。後は立花先輩、食満先輩、善法寺先輩にもくのたまが殺到するだろう。今日は何処からか悲鳴が聞こえるのかも。好きな人なんかいない色気ゼロの私はどうでもいいことをのほほんと考えた。


「さて、行ってみるか」


昼休み。長屋を出て中庭に向かう。既に忍たまとくのたまで溢れ返っていた。別にしょくらあとを渡したい相手がいる訳じゃない。私はただある男の様子を見に来たのだ。何の為に?嘲笑う為に。くのたまに囲まれているタカ丸さんの隣には喜八郎と三木ヱ門がいた。その手には幾つか包みが握られていて、おおと思った。喜八郎は綺麗な顔をしてるし三木ヱ門も優秀な奴だしな、モテるのも解る。三木ヱ門はあいつと違って自慢しまくったりしないしね。三木ヱ門に訊くとあいつは部屋に篭っているらしい。大方自分ばっかりしょくらあとを貰えないから隠れてしまったんだろう。三木ヱ門と別れて奴の部屋に向かった。

躊躇いなく奴の部屋を開け放つ。奴は読んでいた本からバッと顔を上げた。


「何篭ってんの」

「…何の用だ」

「バレンタインなのに寂しい滝夜叉丸を笑いに来た」

「ふん。私は行事如きに浮かれたりはしないのだ」

「負け惜しみじゃん」


滝夜叉丸は苦い顔をして私を睨んだ。だってそれは紛れも無く負け惜しみじゃん。普段の滝夜叉丸だったら「恥ずかしがらず私の元へしょくらあとを持って来たまえ!」とか「君達は貰えるのかい?私の分をあげようか?」とか自信満々にほざくくせに。朝からひとつも貰えなくて流石の滝夜叉丸も凹んじゃったんだろう。高すぎるプライドはズタズタで部屋に篭ったんだろうな、可哀相に。滝夜叉丸の視線を無視して部屋に入って隣に座る。滝夜叉丸は読んでいた本に顔を戻した。


「…ねえ滝夜叉丸」

「なんだ。言っておくがな、みんな恥ずかしいだけなんだきっと。今頃みんな私が今夜眠る頃に枕元にそっとしょくらあとを置く計画でもたてているだろう」

「可哀相だからあげるよ」

「そうそう、丁度こんな風に…え?」


懐に仕舞っていたしょくらあとを滝夜叉丸の形のいい頭に乗っける。滝夜叉丸は本をぼとりと落として私を見た。頭に乗っけたしょくらあとがぼとりと落ちた。誰からも貰えないのは可哀相だからせめて私があげようと前々から計画していたのである。だって今日はバレンタインデー、しょくらあとを食べないでどうする。滝夜叉丸が凹む面白いものも見れたしこれくらい。そんな軽い気持ちで渡したしょくらあとを滝夜叉丸は両手に乗せてまじまじと見つめている。なんだこいつキモ。


「…お前、私が好きだったのか」

「…は?」

「そうか、はははは!そうだったのか!」


やばいこいつイカレてる。そう言えばこいつ馬鹿だった。筋金入りのナルシストだったんだ。しょくらあとを取り上げてやろうと手を伸ばす。だけどあっさり躱されて、しかも何故だか抱き締められてしまった。


「た、滝夜叉丸!?」

「実は私もな、お前が好きだったのだ!」

「…は、え、なっ…!」

「ふふふ、嬉しさのあまりに声も出ないか。可愛い奴め」


こいつ今なんつった。好きだった?可愛い奴?滝夜叉丸の腕に力が篭る。苦しいくらいに抱き締められる。顔がカッと熱くなった。違う、私はこんな奴好きじゃないのに。軽い気持ちで渡したしょくらあとだったのに。なんでこんなに心臓が跳ね回るの。滝夜叉丸はいつもと同じように笑っている。ただ少し違うところがある。頬がうっすら赤いところだ。なにこいつ、なに赤くなってんの。苦しい。声が出ない。


神様の悪戯



…まあ悪い気はしないから、滝夜叉丸の背中に腕を回してやった。





(100214/にやり)
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