「なぁ、釘くれ」

「ほい」


後ろにいる富松に後ろ手で釘を渡す。それからまたすぐにカンッと乾いた音が響いた。全く、体育委員には困ったものだ。屋根の上で電車ごっこなんてどうしたら思い付くんだろう。お陰で屋根が穴だらけ。用具委員会にはいい迷惑ってやつよ本当に。屋根の上は危ないから下級生には任せられないし委員長は木材が足りないって町に行ったし、忙しいったらありゃしない。屋根の修理って面倒臭いんだよね。意識した訳ではないけど私と富松は何故か同時に溜め息を吐き出した。

よりによってこんな日に忙しいなんて、サ・イ・ア・ク。


「富松ほら、四人目」

「違ぇ、五人目だ」

「そーだっけ」


屋根の下でくのたまが忍たまに初々しくしょくらあとを渡している。くのたまも忍たまも顔を赤らめちゃって、あーあーあー。見てるこっちが恥ずかしい。見たくないけど屋根の上にいたら視界に入るに耳にも届いてしまうのだ。お陰で新たな恋仲を見つけてしまった。へえあいつってあいつのこと好きだったんだーって感じで。別に知りたくもないんだけどさ。トンカチを片手に新カップルを見下ろしていたら気付いた。釘を打つ音がしない。振り返れば富松は手を止めて、新カップルを食い入るように見ていた。


「…おい」

「ん?」

「しょくらあと、用意してねえのか?」

「…欲しかったの?」

「そ、そんなじゃねえけど!バレンタインデーだしよ、しょくらあと食いたくなってきた…」


そうか。そうきたか。実は用意してて懐に隠してる、なんて言いにくくなってきた。

ここのところずっと忙しかった。でも汗まみれ土まみれになっても、私は意外とちゃんと女の子だった。食堂のおばちゃんと中在家先輩に聞いて寝る間も惜しんでしょくらあとボーロを作ったのだ。かなり失敗して湯飲みサイズになってしまったけど頑張ったのだ、富松の為に。べべべ別に深い意味は無い。富松もずっと頑張ってるから「お疲れちゃーん」くらいのあっさりした気持ちくらいだ。疲れた時は甘いものがいいって聞いたことがあるし。

渡すなら、今だろうか。うわ気恥ずかしい恥ずかしい。手に汗かいてきた。見れば富松は去っていく新カップルを見ている。…今パッと渡しちゃえばいい、かな。トンカチを置いて懐に手を突っ込んだ。


「とっ富松これっ」

「おーい」


しょくらあとを出す寸前で第三者の声がした。見れば新カップルと入れ違いになって委員長が走って来る。富松の意識は完全に委員長に向いてしまった。なるほど。これが巷で流行りの『けーわい』ってやつか。


「町でしょくらあとを買って来たんだ。みんなで食べようぜ」

「き、恐縮ですっ」

「ははは、みんな待ってるからな。早く降りて来いよ」


けーわいだ。委員長、本当にけーわいだ。これから私がしょくらあとを渡すのに何しょくらあと買って来てくれちゃってんだ。去っていく委員長の背中を睨み付ける。富松は既に片付けに入っていた。…タイミング、完璧失っちゃった。もういいや。よくないけど。縄ばしごに足を掛けて降りていく。数刻振りに立った大地は柔らかく感じた。あーこのまま埋まって行きたい。あーこのしょくらあとどうしよう…。


「ん」

「…え?」


富松が右手を差し出してきて思わず目を見張る。え?何こいつ、まさか。


「あるんだろ」


…こいつさっきの、気付いてたんだ。一気に恥ずかしさが蘇る。手が震えないように気を付けながら懐からしょくらあとを取り出した。私も富松みたいに右手を突き出してぶっきらぼうに渡したら富松はプッと笑った。畜生コノヤローむかつく。


「ありがとよ」

「…お返しは三倍ね」

「ふざけんな」


しょくらあとを取って、そのまま手を握られた。心臓が痛いくらい跳ね上がったけど富松は離してくれなくて、そのまま歩き出す。引っ張られる形になると見えた。

…富松耳、赤いんですけど。あんまり恥ずかしくて委員長が買って来たしょくらあとが食べれなくて福富にあげた。委員長から偉いなって褒められた。もう恥ずかしいばっかりだ。


不器用な愛情表現でも






(100214/にやり)
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