「うへ、匂い甘」

「エース隊長立入禁止!」


キッチンに入ってきたエース隊長の胸を突き飛ばす。するとぬるりと滑った。あ、今チョコ丸めてたから手がチョコまみれだった。エース隊長は悲鳴をあげて慌ててナプキンで胸を拭いていた。そのまま近くにあったトリュフに手を伸ばしたから素早く叩いてやった。全く、つまみ食いが激しいからエース隊長だけは入れたくなかったんだ。エース隊長は叩かれた手にフーフーと息を吹き掛けて(大袈裟)わたしを睨んでいる。


「ひとつくらいいいだろ」

「駄目です。これはマルコ隊長にあげるんです」

「お前ほんとにマルコ好きだよな」


エース隊長はニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべて言った。その言葉にわたしは火が着いたみたいに熱くなる。今たぶん顔が赤い。別にいいじゃないか、わたしだって女なんだから好きな人にチョコを渡したくなる。それくらい普通じゃないか。そう反論してやりたかったけど恥ずかしくて声が出ない。エース隊長は「頑張れよ」と言ってキッチンから出て行った。ふむ、確かに頑張らないと。コックの聖域をお借りしているのだから下手な物は作れない。わたしはきちんと愛情篭めてチョコを真ん丸に丸めた。すると再びキッチンのドアが開いた。なんとなく雰囲気で解る。ちくしょうエース隊長、戻ってきた。


「味見してやろうか?」

「結構です」

「味見だけだって」

「わたしは、一欠片だってマルコ隊長以外にあげたくないんです!」

「おーおー、だとさマルコ」

「……。は?」


マルコ?マルコ、だと。チョコからバッと入口に顔を向けるとエース隊長とマルコ隊長が立っていた。エース隊長はさっきと同じようにニヤニヤニヤニヤしている。マルコ隊長はいつもと同じように無表情。だけどわたしはそうはいかない。全身の血が頭に昇って噴火しそうなくらい身体が熱い。恥ずかしい。有り得ない。今の、マルコ隊長に聞かれてたなんて有り得ない。手にしていたチョコをぼとりと落としてしまった。エース隊長はにしししと楽しそうに笑って去っていく。その足音が聞こえなくなる頃にマルコ隊長がキッチンに入ってきた。ゆっくりわたしに近付いてきて、わたしの前で止まる。腰を曲げたかと思えばわたしが落としたチョコを拾い、ぱくりと食べてしまった。…え、それ落としたやつなのに!


「マルコ隊長、」

「一欠片だって俺以外にやりたくねェんだろい」


無表情で、何の抑揚も無い声で言われた台詞に、わたしは何度もコクコクと頷いた。マルコ隊長はクッと喉を震わせて腕を組む。わたしを挑発するように笑って見せた。


「なら、しっかり作って持って来い」


零れ落ちそうなくらいに目を見張る。マルコ隊長はくるりと踵を返しキッチンから出て行った。足音が遠ざかっていく。マルコ隊長が、去っていく。たぶん部屋に向かったんだ。だって今持って来いって言ったもの。わたしにしっかり作って、持って来いって。落ちたチョコまで食べてくれちゃって。赤くなった頬を叩く。チョコがついたけど気にならないくらい気持ちが高ぶっている。見てろマルコ隊長、びっくりするくらい旨いの作ってやる。それとこれって期待してもいいんですよね?


断ったら泣いてやる





(100214/にやり)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -