「立花アアアアア!」
「五月蝿い」
スパンッと勢いよく戸を開け放つと同時に手裏剣が飛んできた。予測済みだけど恐ろしい奴。本読みながら手裏剣投げるか普通。持っていたくのたまの友で手裏剣を受け止める。穴が空いたけど読めるなら問題は無い。今問題なのは別のことだ。例えばそう、そう!私の鼻が真っ黒なことくらいだ!
「そんな下手くそな化粧をしてどうした」
「化粧じゃない!これはね、あんたンとこの後輩にやられたの!」
「私の?誰だ?」
「一年は組の笹山兵太夫!」
そう。それは半刻前の出来事だ。私は町に買い物に行って帰って来て門をくぐったところだった。そしたら笹山がトテトテと歩いて来て「差し上げます」と箱を差し出してきた。笹山は事あるごとに私にからくりを仕掛けてくるかなりの悪戯っ子で、こうしてプレゼントを渡すことなんか初めてだった。今まで無理矢理落とし穴に突き落としたり獣用の罠に引っ掛けたり部屋の戸を開けたら黒板消しが落ちてきたり、ささやかなものから陰湿なものまでからくりを仕掛けられてきたけど、少しは改心したのかな。結構苛立っていたけど所詮一年生のやること。許してやるか。ありがとうとお礼を行って部屋に戻りわくわくしながら貰った箱を開けた。私はてっきり饅頭だとかそんなものだと思っていた。
開けた途端、鼻に激痛を感じた。なんと笹山からのプレゼントはびっくり箱で、中からグローブを嵌めた拳が勢いよく飛び出したのだ。予測していなかった分タチが悪い。私はパンチをモロに食らってしまった。笹山って一年生のくせになんでこうも完成度が高いもの作るかな。かーなーり痛い。ズキズキ悲鳴をあげる鼻を押さえるとぬるりと滑った。なんだか鼻がスースーする。…嫌な予感。私は恐る恐る鏡を覗き込んだ。
「そしたらこのザマよ!」
「グローブに墨汁が塗ってあったのか。やるな、兵太夫」
「感心すんな!先輩なら叱れ馬鹿!」
鼻が真っ黒なのは120パーセント笹山の所為なのだ。むかついてむかついて笹山に一発ゲンコツかましてやらなきゃ気が済まない!と思ったのに一年は組に行っても長屋に行っても笹山はいない。完璧に私をおちょくっている。それで苛々の矛先が立花に向いたのだ。立花は私に馬鹿と呼ばれたのが気にいらないのか苦無を投げてきた。だけどそれは予測済みだから再びくのたまの友で避ける。くそ、苛々する。でも叫んだらちょっと楽になった。
「とにかく!笹山に会ったら叱っておいてよね!」
捨て台詞みたいに吐き出してまた戸をスパンッと閉めた。あー畜生、苛々解消に七松とバレーしてこよ。
「もう出て来ていいぞ」
「はい。すみません先輩、突然押しかけたのに押し入れに匿って頂いて」
「何事かと思ったが…程々にしろよ、兵太夫」
「だって先輩ってば気付かないからつい」
「あまりしつこいと嫌われるぞ」
「どうしてでしょうね。僕は好きだからいじめてるのに」
「…大変な奴に惚れられたものだ」
誰も傷付けない愛し方というのは蜂蜜をダイヤに変えるより難しいとスターリン博士は言う
(100202/にやり)