「お前って、んっとに美しくねえ」


ココと話していたらいきなり現れたサニーが言った。サニーは私を見ると必ずそんなむかつく台詞を吐く。その度に私がサニーを睨み付けるのはお決まりパターン。だってむかつくじゃない。別にサニーに「美しい」って言われたってこれっっっぽっちも嬉しくないけど「美しくない」って言われるのも嬉しくない。かなり腹が立つ。そりゃあ確かにサニーは綺麗だ。男の人かと疑う程に美しい。肌は白くてきめ細かいし睫毛は長くて真っ直ぐで私には無いパーツばかり。髪の毛に至っては私は自分のがいいけどね。あんなカラフルヘッドじゃ恥ずかしくって外歩けない。そんな一般人では真似出来ないヘアースタイルもサニーだから似合うのだ。サニーが綺麗で、私は綺麗じゃないから。あーむかつく。サニーは睨み付けたってちっとも怯まない。


「ココ、行こう」

「え?あ、あぁ…」

「逃げんの?ダッサ」


サニーが鼻を鳴らして笑うのと私が手を振り上げたのはほぼ同時だった。だけど振り上げた右手はサニーの頬にぶちあたる直前で止まる。サニーの触角に絡め取られた。むかつくから反対の手を振り上げたらそれも同じように固定された。傍から見れば万歳してるような姿が情けない。かっこ悪くて嫌になる。目頭がツンと痛んだ。畜生、畜生、こんな奴。むかつくったらありゃしない。私はただココと話してただけなのになんでこんな屈辱味わわないといけないの。折角今度ココがフルコースメニューにあるデザートのドムロムの実を食べさせてくれるって言うからテンション上がってたのに。もうがた落ちだし意味解んない。


「サニー」

「お前関係ねーし」

「…非道いことはするなよ」


ココは溜め息を吐き出してひとりだけで行ってしまった。ココのアホ、薄情者。でも仕方ない、サニーの我が儘にはトリコですら折れる程だ。私は絶対折れてやんないけど。手が駄目なら蹴ってやる。そう思ったら力を入れたのに足が動かなかった。最悪、既に足も捕まってた。触角って卑怯だとつくづく思う。こうなったら睨むしかないけど睨んだってサニーは動じない。無表情で私を見下ろすだけ。女なのに「美しくない」とか言われてサニー程高くは無いけど低くもない私のプライドはボロボロだ。


「…んで泣く訳?」

「うるさいし」

「うるさくねーし」

「触んな、ばか」


泣きたくて泣いてる訳じゃない、てゆうか原因はお前だ。サニーの大きなてのひらが私の頬を撫でる。その手つきが意外なくらい優しくてかなりびっくりした。何こいつ。普段なら「お前みたいな奴触りたくねーし」とか言うくせになんなのこいつ。本当に意味が解らない。四肢を拘束する触角が離れていく。自由になった両手がだらんと垂れ下がる。未だ触れられたままの頬がやけに熱かった。


「お前はさぁ」

「なに」

「俺といんのが1番美しいんだって」

「…は?」

「んで気付かねーのか不思議だし…」


ハア、とサニーは大袈裟に溜め息をついた。いやいや、溜め息つきたいのは私の方だ。いつの間にかサニーは両手で私の頬を包んでいた。触角で撫でられるよりあたたかくてリアルで心臓に悪い。いみが、わからない。がた落ちだったテンションが一気にハイになる。テンションというか心臓が私の意思に反してハイになってる。視線をうろうろとさ迷わせた後サニーを見上げる。サニーは薄い唇の端をゆっくり持ち上げて意味深に微笑んだ。その三日月が寝転んだような形の唇が、ゆっくり、ゆっくり、落ちてくる。サニーの吐息も感じられる程近くに来た時に慌てて身を引こうとしたけど混乱した頭は上手く働いてくれず、まあつまりは遅かった。私の唇はサニーの唇でぴったり塞がっていた。1分、1時間にも感じた時間は実は10秒も経ってなくて、唇はすぐに離れた。サニーの長い指が私の前髪を払って顔を覗き込んで来る。茹でたタコみたいに真っ赤であろう、私の顔を。


「ん、美しいじゃん」


ドコが。ナニが。あんたのその「美しい」の基準って解んない。そう言ってやりたいのに声が出ない。代わりに涙が零れた。恥ずかしい、悔しい、むかつく、でも嫌じゃなかったから更にむかつく。なにそれ、あんたはただココに嫉妬してただけじゃんか!








(100124/エッベルツ)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -