葵君に招待状を貰った。白い封筒にはハートのシールが貼ってある。
受け取ろうとした横からヒカル君の腕が伸びてきて、呆気なく封筒を開けた。それを見てぷりぷりと葵君が怒った。
出てきた紙には『六角テニス部のうりょう花火大会』と書いてある。



「剣太郎、納涼ぐらい漢字で書け。」

「そ、それはいいでしょ!兎に角、6時半に部室前に集合なのでよろしくお願いします!」



葵君はそう言うと颯爽と去っていってしまった。
せっかく招待してもらったのでお言葉に甘えさせて頂くことにした。ヒカル君と待ち合わせをしてテニス部部室に向かうとヒカル君と私以外誰も来ていなかった。



「あれ、時間間違えちゃった?」

「いや、合ってるはずだ。」



時計を見れば時間は6時30分丁度。部室の端っこには大量の花火が置いてある。きっと今日使うものなんだろう。
ヒカル君はバケツに水を汲むと一番小さい花火のパックを取り出した。



「その内来るだろうから、先にやって待ってよう。」

「え、いいの?」

「これだけあるんだ、(少しぐらい大丈夫だろ。」



部室から少し離れるとそこはもう砂浜で、すぐ近くから波の音が聞こえてくる。
ヒカル君は持っていたバケツを置いて、花火大会のパックの封を開けた。



「どれにする?」

「じゃあ、これ。」



私がピンクと黄色のテープが巻かれた花火を取ると、ヒカル君は一番前にあるキャラクターの描かれた花火を取った。
そしてライターを取り出した。



「蝋燭持ってくればよかったかな?」

「大丈夫。きっと誰か持ってくる。」



ヒカル君はそう言うとライターに火を付けた。そして私の持っていた花火に近づける。火が移ると勢いよく火花が出始めた。
ヒカル君はそれを見るとライターをバケツの隣に放り投げて、持っていたキャラクターの描かれた花火をそんな火花に近づける。パチパチと音を立ててヒカル君の持つ花火にも火が移った。



「わぁ、綺麗。」

「こっちはカラフル。色がいろいろ変わる・・・ぷっ。」

「あははは。」



ヒカル君が言った通り持っている花火は、火花の色が鮮やかに変わっている。
薄暗い浜辺に花火の光だけが浮かぶ。
そんな淡い光越しに見えるヒカル君は相変わらずかっこいいなぁ・・・・。



「くしゅんっ。」



そんなロマンチック感じのムードを私のくしゃみが遮った。何でこのタイミングで出るんだ、私のくしゃみ。



「寒い?」

「え、あっ、大丈夫。只のくしゃみだから。」


そう言って私が空いてる手をブンブン振ると、ヒカル君は何も言わずに私をじっと見つめた。




「・・・持ってて。」



そしてそう言って私にキャラクターが描かれた花火を差し出す。私がそれを受け取るとヒカル君は着ていたパーカーを脱いだ。そして私の頭にフードを被せて、残りは私の肩に掛けた。
驚いてヒカル君を見上げればなんとも満足げな顔をしている。



「ヒカル君、これ・・・・。」

「海風は涼しいから。」

「え、でも・・・。」

「大丈夫、汗臭くないはずだから。」

「そっ、そういう事じゃなくて・・・・。」

「それに。」



ヒカル君がそう言うと持っていた花火の火花が2つとも弱まった。



「てるてる坊主みたいで、可愛い。」



そう言って笑ったヒカル君。あぁ、もう、それを言うヒカル君が可愛いと思う。口に出しては言わないけど。
私は完全に燃え尽きた花火を水のバケツの中に入れた。花火はジュッと音を立てて水の中に沈む。
私はくるりと後ろを向くとお言葉に甘える事にした。フードはそのままヒカル君のパーカーに袖を通す。半袖のパーカーが私が着ると七分袖になった。わぁ、ぶかぶかだ。



「うみ。」



名前を呼ばれて振り返ると、ヒカル君が私の鼻の頭にキスをした。
驚いて声も出ない私の頭にあったフードが肩まで落ちる。



「うみ、俺・・・。」

「この、ダビデっ!」



そう言いかけたヒカル君がよろけた。と思ったら次の瞬間にはヒカル君の首に腕が巻きつく。



「バ、バネさん、何でここに?!」

「集合時間過ぎてんだ、そりゃいるだろ!」

「ギ、ギブギブ、バネさんたんま!」

「うるせぇ、ダビデ!!」



現れたのは黒羽先輩だった。その後ろには笑顔の佐伯先輩と、木更津先輩に目隠しをされている葵君の姿もあった。
ヒカル君は黒羽先輩の腕から脱出すると、逃げるように波打ち際まで後ずさりをする。



「随分可愛い格好してるね。」

「え?」



佐伯先輩がそう言って私の隣にやってきた。どうやらヒカル君から借りたパーカーの事を言っているようだ。
何だか急に恥ずかしくなって少し俯くと、大きな水しぶきを立ててヒカル君が海に倒れ込んでいた。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -