真っ直ぐに、あの人だけを見つめて。届け、僕の想い!


 ―――生徒会室

 今日は日曜で学園が休みだが、ダルタニアンとコンスタンティンは山積みになってる書類の整理に追われていた。
 というのもポルトスが…あのポルトスが、もう3日も風邪で伏せっているのだ。期末でいつもより3倍はあるだろう書類を2人で作業するのは非常に難儀であった。
 普段にぎやかな生徒会室も作業に追われてるのも相まってとても静かだ。

 ダルタニアンはちらっとコンスタンティンの席を見る。

(やっぱり、なんだか様子がおかしい…)

 朝からコンスタンティンは作業の手を止めがちで、そわそわ落ち着かない。
 ダルタニアンは首を傾げた。
 確かにコンスタンティンは少し妄想癖はあると思うが、生徒会役員の彼は真面目に仕事をこなす。
 今日なにかあったのかな…ダルタニアンは書類に判を押しながら考えてみる。


(えーっと…今日は14日…)
(……2月14日!?)


(バレンタインデー!!)


 そういえばプランシェが何日も前から意気込んでいた…その理由が今この瞬間わかった。

 次に一気に血の気がひく。

(どうしよう、バレンタインのことすっかり忘れてた!でも今から準備したってとても間に合わない)

 まず、目の前に山積みされている書類も早く処理をしなければならない。

 ダルタニアンは深い溜息をついた。




「だ、だ、ダルタニアン先輩!」


 何の前振りもなく大きな声で名前を呼ばれたダルタニアンは、肩を竦ませる。


「え、あ、コンス、どうかした?」
「はい、今日はバレンタインなので」


 コンスタンティンは引き出しをあけ、潜ませていた紅色の薔薇をダルタニアンに渡した。


「僕の気持ち、受け取ってくれますか」
「うん、もちろん!」


 薔薇を受け取ったダルタニアンだが浮かない表情をしている。コンスタンティンは少しずつ血の気がひいてきた。


「あ、もしかして薔薇は嫌だったかな。すみません気が利かなくて」
「まさか。すごく嬉しいよ。違うの…」


 ダルタニアンは左右に小さく首を振った。


「…コンス、実は私バレンタインのことすっかり忘れてて…何も準備してないの…本当にごめんなさい」


 ダルタニアンは薔薇を見つめながら涙を堪えるのに必死だった。


「…嫌だよね」
「え?」
「コンスはいつも私のこと考えてくれてるのに、最近の私は生徒会の仕事しか頭になかったなんて…彼女失格だよね」


 今にも涙がこぼれそうなダルタニアン。
 泣かせたくないコンスタンティンは大きく息を吸った。


「…ダルタニアン!」


「は、はい!」
「僕はありのままのダルタニアン先輩が好きです。大好きな先輩が僕のそばにいてくれる…それだけいいんです」

 眼鏡の向こうにある瞳に真っ直ぐ見つめられ、ダルタニアンは吸い込まれるような感覚に陥った。


「うん。私もコンスだけだよ…いつもありがとう」



 頬を染め目を潤ませてるダルタニアン。コンスタンティンは理性を保つことに必死だった。


(ヤバい!キュンキュンする!どうしよう!いつもにも増してダルタニアン先輩が可愛すぎる!!)
(くぅーーっ!このまま抱きしめたいけどそんな勇気がない!)



「先輩!今日はここまでにしましょう」
「え…ええ!?」
「だいたいこんなに仕事が溜まってるのはポルトス先輩のせいです!こんな寒い日に寒中水泳なんかするから風邪をひくんです!」
「まあ、ポルトスにも悪いところがあるとは思うけれど…」
「せっかくバレンタインなんです。僕は仕事なんかせず、先輩と二人きりで過ごしたい」
「でも、いいのかな…」
「いいに決まってます!」


 コンスタンティンはダルタニアンの手をとり、生徒会室を飛び出した。


「ダルタニアン先輩」
「なあに?」
「行きましょう」
「どこへ?」
「えーっと、そうだなー、どこへでも!」



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