「嫌ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!睨んでる、睨んでるこっち来ますエース助けてえええて!!!!」
「ああ?なんだよ」
寝ている男をガクガク揺らせば、凄く面倒くさそうに顔をしかめる。今一番近くに居るのはエースだから仕方ないんだ。ほら、ボケっとしてるこの間にもアイツはあんなにも怒って。
「やばい!急いで!ホントに急いでお願いいいい」
空まで届きそうな程巨大な海王類。 何度も小突かれて激怒したそいつは、狙いを定める蛇の様に揺れてこの船を睨み付ける。
横目でそれを確認し、中々の強者だと踏んだエースの目は起きがけとは思えない程きらりと光って、怪しげに笑い、そして腹に乗せていた帽子を深く被った。
「暇つぶしが来た」
ファイティングポーズを決めたエースに取り敢えず一安心。放っておいたら後は片付けてくれるし、私はこの後お礼に渡す食べ物でも探してこようか。
しかし、振り返りもせず歩き始めた進路が信じられない程揺れ、弾かれて上空へ飛ばされたのはそのすぐ後の事だった。エースが相手している筈のそいつは巨大な上に俊敏で、獰猛で。尻尾で船を揺らし、一番弱そうな者から弾き飛ばして口を開けて待つ程に賢い。
「ア゙ア゙ア゙!!!死ぬ!死ぬ!!ルフィルフィルフィっ!」
でも心配ない。 3回呼べば伸びてくる魔法の腕が、瞬く間に私の胸倉を掴んで、こうやって直ぐに甲板へ引き戻してくれる…んだけどね。
バコ、と無残に砕ける周囲の板。 しまった。こんなのサボにバレたら。
「なあ、これ沈んだら洒落にならないんだぞ」
もう冷や汗しかでない。 私の体は海図を書いていたテーブルごと突き抜け床の上に。あと、サボの胸に。新郎新婦ですか?って態勢で首に腕まで回していた私は、取り敢えずその場のノリで引くつく彼のズレた帽子を戻してあげる。
「えーっと、てへぺろ。」
盛大な溜息を聞きながら抱き上げられ、やっと地に足つければ現状は床に穴一つ。壁に穴とルフィ。ちょっとだけ…海水。
「エースはね、海王類の係りなの」
「解った。俺が治すから後は頼んだ」
やった怒られない!と思ったのはつかの間、ぐいと引かれた耳元で''後でゆっくり聞かせてもらう''と非常に低い声が、またもや冷や汗を連れてきた。
「お前達は早く上に行け!」
うかうかしてられない。 彼らとの航海を、こんな所であんな奴に終わらせられるなんて御免だ。 壁に埋まったルフィを叩き起し、急いで落ちた穴から顔を出す。すると私が乗り出すより早く、ルフィはもうエースの隣に立っていた。
「よしいくぞルフィ」
「おうっ。」
そんな二人の背中を眺め、呑気に好きだなと思った。太陽が照らす彼らの笑顔は私の顔をどこまでもだらしなくさせる。海王類の叩く水しぶきはキラキラ降って、一層世界を輝かせて素敵だ。そしてニヤける私の隣に降ってきた二人はまた大きな穴を空けた。
「えええええ!??どうしようどうしよう!サボー!サボー!!!」
二人を揺すりながら改めて見上げれば、何故だか三匹に増えている巨大なあいつ。やばい、文字通り蛇に睨まれてる。なんてくだらない事が頭をかすめる程パニックな私は震えるしかないんだけども。
「ホントお前達は面倒くさい体だな」
太陽光線を華麗に遮るその影が、やはり全てを綺麗に収めてくれた。
「で、誰が犯人だ」
どんな魔法を使ったの?ってくらいまともになった船内で、犯人探しは始まった。勿論皆は、全ての始まりである私を指さす訳で。
「みんなが構ってくれないから、追っかけてくるアイツに石投げて遊んでましたごめんなさい」
彼らに嘘はつかない。ルフィは自身の腹ペコしか気にしないし、エースとサボは正直に話したところで甘いのは充分知ってるし。ほら。二人とも同じ顔で、呆れて溜息をつくだけなんだ。斜め下を眺める方向まで同じだなんて、なんかもう。
「なに笑ってんだよ」
「えっとね、好きだなって」
キョトンとするサボ。 あんぐりなエース。
「もう治っちまったのか!これで……………」
そして匠の技に感動するルフィ。
盛大な溜息を聞いても、船がこんなにボロボロでも、どんなピンチに見舞われても、やっぱり。あきれ果てて盛大に笑い始めた彼らが、全ての心配事を持ってって『大丈夫』にしてくれるんだ。
「なあ、俺たちさ」
「そうだな」
「どこまでも行けそうだな!」
大丈夫。 全部オッケーなんだ。 彼らが居れば。
きっと何があっても、 私達は海を越えて行ける。
【うみねこは今日も鳴く】
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