「眉間にシワ」
「……うるさい」

週末に訪れる固定休。何をするかは人それぞれで、家族とのんびりと過ごす人、恋人とデートをする人。恋人ではない異性とデートをする人、
恋人でもない人に「どこに行きたいか」と聞かれれば、遊園地でも水族館でも映画でもなく本屋と答えた。元々決めていた私情だ。それに恋人ではない人が同行するだけで。さしていつもと変わりはない。休みを誰かと過ごす事を勿体ないと思うようになったのはいつだろう。疲れ果てた時は、そっと一人になりたいものだ。私の答えに「わかった」とだけ頷いて、勝手に決められた待ち合わせ時間の午前10時。面倒くさい。
用が済んだら帰ろうか。今日は新刊の発売日だった。
「この本は良かったよ、作者の考えがね」
「そう」
「こっちはどうかな、僕はあまり好きじゃないかも」
「へぇ」
物色する私の左隣でサボはこれはどうかと話し掛ける。おざなりに返す返事は気にも止めていないようだ。まるで自分が非道に感じる。
「どうして此処にいるの?」
「あれ、おかしいね。僕は昨日、君にデートをしようと言ったはずだよ。もしかしてデートが何か知らないの?」
「馬鹿にしてるの」
溜め息ひとつ大きく吐いて、すました顔のサボをキツく睨めば「眉間にシワ」と笑われた。
決めていた新刊を手にしてレジに並べば「そんなに買うの?」とまた笑われて、財布を出す前にカルトンに置かれたのは私のではないクレジット。
「ちょっと、何するの」
「何って支払いだよ?レジに並ぶってそういう事でしょう」
店員さんにニコニコとされて、後ろにレジ待ちが並んでいると解れば、ぐっと言葉が出なかった。そういう事ではない。どうしてサボが支払うのか、私は借りなど作りたくない。新刊が入った袋を受け取って、書店を出れば手を引かれた。ちょっと、そんな私の言葉はこの男には聞こえていない。
数メートル歩いた先にあった喫茶店。二人です、そう微笑みながら案内スタッフに告げたサボを見て、そのスタッフは微かに頬を赤く染めている。
面白くない。何がと聞かれれば、わからない。主導を握られている事だろう、自分の思うように事が進まない事だろう、
案内された席は程好く陽射しが差し込む席で。ああ、一人でここで本を読みたかった。素直にそう思う。
「何を飲む?」
「……コーヒーで」
聞こえるか、聞こえないかの声量で発せばサボには聞こえたらしい、店員を呼んで「コーヒーください、砂糖とミルクは、いらないかな」とまた微笑んだ。
私がブラックコーヒーが好きだと、この男は知っているのか、何とも不思議な気分だ。
「どういうつもり?」
「何が?」
「どうして私と一緒にいるの?」
「またその話?僕は君とデートがしたいだけだよ」
「私はしたくないわ」
振り回されるのは好きじゃない。コーヒーの好みは知っていて、そんな私の性格はわからないのか。中途半端だわ、知るなら全て理解して。
「ーーっ、」
「どうしたの?」
注文したコーヒーが2つ。サボはカラカラとストローを回す。首を傾げたサボを見て、脳裏を過る全て理解しての文字をそっと繰り返した。おかしい。私はどうしたのか。サボのペースにはめられて、思いもしないことを考えている。
「ねぇ、今日どうして来てくれたの?」
「どうしてって、サボが誘うから」
「僕が誘えば来るんだ」
「はぁ?何言ってるの」
「君は異性からの誘いを断ると聞いたから、僕も断られると思っていた。ふふ、来てくれてありがとう」
左目にかかった前髪を、サボの綺麗な指がはらう。良くなった視界に写ったのは、優しく細められたサボの瞳だ。顔が熱い。私は悪くない、全てサボのせいだ。
このちくちくと痛む胸のつっかえも。お腹の底が熱くなる感覚も。全て乱されているのはサボの、
「僕のせい」
「え、」
「君がそんな顔をするのは、僕のせいかな」
愉しそうに、からかうように。前髪をはらった指は唇を軽く撫でた。好き、そう言われているかのようにゆっくりと優しく、人差し指を押し付けられて。知らず知らずに「ちゅ」とそこが鳴った。
「ねぇ知ってる?人生で何よりも難しいのは、嘘をつかずに生きること。そして、自分自身の嘘を信じないこと、なんだよ」
「な、に……」
「僕は君が好き、そして君も僕の事が好き」



嘘だって思ってる?ならば一度さ、

【私も好きと──、認めてみてよ】
【そしたら君は、僕のもの】





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