大きな戦いや重要な任務、力量を試されたあの日の無茶な紛争も、同士の暖かなエールと助太刀付きで、命からがらなんとか乗り越えてきた。
世界を変えるだなんて大仕事はそもそも私には向いていない。それでも「こうありたい」という気持ちだけを汲んで居場所をくれる彼らは有り難くて、幸せな場所、何物にも変え難い存在。でもその中で誰よりも劣る私が、押し潰されそうな重圧に耐えながら自身の精神を保つ事は難しい。
ドジを踏んだ時の劣等感は凄まじいモノがある。消えてしまいたくなる消滅願望、それでも目の前にある未解決の課題。それを前にして自己嫌悪、絶望。
そんな終わりのない負の連鎖を続ける私を奮い立たせてくれるのは、いつも同士達の「頑張れ」という声援の中にある。
「大丈夫か、ナツ」
スパイになり切れず目の前で綻びを見せ、袋叩きに合いそうだった今も、文字通りすぐさま飛んできた参謀長が全てを綺麗に纏めた。 いや、綺麗にではないかもしれない。潜入という情報収集を丸潰しにして敵をやってしまったこの現状は、彼にとって綺麗かどうかは解らない。少なくとも絶命的だった私には綺麗に収まった、という、我が儘臆的卑怯な思いだ。
「すいません、御免なさい」
「いや。ナツにしては頑張った」
「甘やかさないで下さい。これは私に課せられた試練でしょう?」
「そうだな。80点てところか?」
「どこがですか。聞いてますか私の話」
「さあ帰還するぞ」
荒地を通る帰り道、俯く私は手を引かれ、ひび割れた大地の溝に落ちる影を横目に自己嫌悪は深まるばかりだった。 次の任務がこなせれば一人前なんだからと、笑顔のエールをくれる皆の顔を浮かべ、今日の報告を通しても、やはり頑張った頑張ったと声援をくれるのだろうと思うと酷く喚きたい気分になった。
「お前あの時なにを拾った」
私を連れて行く背は暮れかけた太陽に挑みながら、振り返ろうともせず偉大な人であり続けた。 その影に収まりきった私は、小さく灯る火を守るように、革命のシンボルが刻まれたポケットの布地を握り締める。
「参謀長がくれたグローブを落としました」
それがあれば次こそ頑張れますと息巻いて、これを御守りになんて、せがんでおいてこれだから後味もクソもない。最悪の結果だ。しかし目の前の背はご機嫌に肩を揺らし、緩く纏められた四本の指からは愛用品の片割れを失った素肌の優しさが伝わる。
「はは、知ってるさ」
「じゃあ聞かないで下さい。もう、ちゃんと反省してますし」
「俺の楽しみの一つだ。気にするなって」
「とことん自分が嫌になるのでそれ以上笑わないで下さい」
しかし私は雑草だ。 どんなに潰されても。 上手くは、まわらなくても。
「大丈夫さ、ナツ。大丈夫」
俯く顔を上げる頃には日が落ちていた。 そしてその代わりに登った同士達の溢れる笑顔が、私をあっという間に囲んだ。 やっぱりこうなったかと落ち度を笑いながらも、高得点を口々に励ましとイイコイイコを頭に乗せて、少しだけ自己嫌悪の真っ黒闇から救ってくれる。
そしてその間に解けていった指先は同士達のエールに押され、遥か遠くから微笑んで、聞こえもしないのに唇だけが大丈夫だと。よくやったと。最後に私を不屈にする言葉を付け足して動くのが見えた。
「ナツ」
決して変えられない物を持たされて母体から生まれ落ちた生命体。そこには一個体を形成する年数分の歴史と、数え切れぬ幾つもの要素がある。そしてそれに名付けられた、それを総称する一つの名前。
彼が私の名を呼ぶのは容認だ。 弱い自分に負けそうな私を、どこまでも奮い立たせる小さくも熱い灯火。 重圧から開放し、あってもいいのだよと諭すように、全てを包む君の声が私の名を綴る。それは速やかに私の全てを支配して、消え入りそうに小さくなった私は取り巻く鈍色の世界で、また光を取り戻す。
ありがとうを言いそびれた私は、皆に囲まれたままポケットのグローブを握り締め、その手を掲げ振ってみせた。ありがとうと、今は精一杯の愛、そして不屈の選手宣誓の思いを込めて。
皆の声援が並ぶクレジットの後ろ、 君が微笑みながら名を呼んでくれるうちは、どこまでも不屈で。いつか後ろではなくその隣に立ち、それを追い越し前に立ち、誰より強く孤独な君を守れるその日まで。
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映画で、題名 配役等の字幕の背景
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