少し仕事で疲れたから。
今日はのんびり湯船につかろうと考えて
お湯を溜めようと浴室の扉を開けて、フリーズ。

陽気に鼻歌なんて歌いながら
わしゃわしゃと泡立つ金髪が目に入ったから。

間違いなくお隣のサボなのだろう、
けれど彼にしては珍しい。
無断使用なんてした事がなかったのに。



「…一緒に入る?」



サボの真意を確かめようと
もう一度扉をゆっくり開ける、そして後悔。
タオルを腰に巻いた彼が
思いの外目の前に佇んでいたからなのだけれど。

一緒になんて…と考える頭とは裏腹に
自然と頭がコクリと一つ振られ。



「…んじゃ、脱ぎなよ。今すぐ」



その言葉を合図に、人の良さそうな笑顔を浮かべていたサボの表情がガラリと変わる。紛れもない、男の顔。

タオル…いやそれじゃあ心許ない、この際だから服のまま入ると告げれば無言のままグイッと手を引かれ、意図も簡単に浴室へと連れ込まれる。



「…濡れて透けてるから、余計にそそるけど」



頭上から熱めのシャワーが降り注ぎ、
髪から足先までをも濡らして行く。

唐突に、サボがそんな事を囁くから
何だか急に恥ずかしさが込み上げて、
慌てて両手で隠そうとするのだけれど
それらは叶う事もなく。

気付いた時には
両手はサボの手によって
綺麗に壁に縫い付けられていた。

湿った背中が不快ではないのは、
正面に、彼がいるからなのか。



「これじゃあ脱げないね」



何を言うか、と。
サボが両手を押さえているから
脱ぎたくても脱げないのではないか。



「…おれが脱がしてあげよっか」



一瞬、サボの唇が上がったのは気のせいか。
遠慮しますと言う暇もなく、
両の手首は頭上に一纏め。



「あ、もしかして脱がされたかった?」



そんなに物欲しそうな顔をしていただろうか。



「いいよ、望み通りに」



手首を掴んでいる方の手とは反対側。
空いてる方の手で、
サボは耳から顎、首のラインをするりと撫でる。

自然と力が入る体は
決して嫌悪からではなく、
少しの不安と、少しの羞恥
そして少しの期待感。



「そんなに力入れてたら脱がせないでしょ」



誰のせいだと。
そう思ってはいるけれど
辿るサボの指が止まないから、
力が抜ける事はなく。



「…ふぅん、そっちがその気ならおれは構わないよ?」



そしてサボの顔が近付いたかと思えば
浴室の温度なんかよりも、
遥かに高い体温が唇を掠っていった。

段々と深くなる口付けに身体の力が奪われて。
それを見透かしたかのように、
一つまた一つとシャツのボタンを外して行くサボ。

もう、されるがまま。



「…ちょっと、見え辛いかな」



わざと胸元に顔を近付けて
焦らすようにボタンを指先で弾き始める。

ほんの一瞬、触れるか触れないか。

それなのにサボの指が通った肌は、
熱を帯びたサボの吐息が掠めた肌は
ジンジンと灼けるように痺れてくる。



「もう逆上せた?」



くつくつと、悪戯に笑うサボ。
湯あたりしていないのなんて、お見通しなのに。



「…うん、熱くなってる」



きっとわざと。

耳や、頬や、首筋を。
唇で食むように、食むように。



「ほら、やっぱり全部脱ぎなよ」



熱くて堪らないんだろう?



耳に唇を押し付けて低く甘ったるく囁くサボは
お湯で張り付いたシャツ越しに、
ゆるゆると背中や腰を撫でさする。



たったそれだけなのに、
まるでマリオネットの糸が切れたよう
ぺたんとその場に尻餅を着く。

包み込むような湯気で
せめて赤らむ全てが隠れたらいいのに。

けれど、そんな考えなどお構いなしとでも言うのか
覆い被さるように腰を屈めるサボ。
逃げ場は、ない。



「…誘ってる?」



一纏めにされていた腕が解かれて
自由になったと言うのに。
はだけたシャツも、火照るすべても
隠せない。



「…どっちがいい?」



何が、なんて聞く前に。

ちゅ、ちゅ、と。
全てを味わうようなキスの雨。



「…ここで抱かれるのと、部屋で抱かれるの」



それを聞くなんて、
どれだけ狡い人。

サボの全てに、
身も心も痺れているのに。
なんて、狡い人。

せめてもと、
首を左右に小さく振って
微かな抵抗を見せたと言うのに。



「…おれの事、好きな癖に」



わかっている癖に。



「…じゃあ、おれの好きなように」



最大限に。
意地悪く微笑むサボは
後頭部に手を回し、引き寄せて

反対の手では腰を抱きながら。

深く深く、溺れるような口付けを。




「こっからが、本当のお楽しみ」




湯あたりで逆上せるのが早いか
サボに逆上せるのが早いか。

答えは見えているけれど

今は何も考えられない、
サボの口付けに応えるのが精一杯。





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