別に邪魔したいわけじゃないけれど
少しくらい入る余地があってもいいのに。


「ねえねえ」
「んー…」
「起ーきて」
「んんー…」



この人はいつもこうなのだ。
私が寝入ってから帰って来て、
朝は私が出勤してから目覚める。

一緒に住んでそう長くはないけれど、
すれ違うようになったのはいつからだろう。

別に気持ちが離れているわけではないし、
冷めたとも思わない。けれど。
もうちょっと一緒の時間が欲しい。
もうちょっと、求めて欲しい。




「サーボー」
「…ねむ、」
「さーぼーくん、あーそーぼー」
「……あーとーでえ」



だからと言うわけではないが、
今日バイトを休んでみた。
ずる休みとかではない、交代。

サボにはまだ言っていないから
私がいる事に驚くはず、だったのに。
全く起きやしない。



「もー。ねぼすけだなあ」
「んん、」
「ほーら、つんつん」


男の割にすべすべした頬をつつくと
ふにりと弾力があって気持ちいい。
人差し指を使ってふにふにとつついていれば
さすがに擽ったかったのか
うっすらと目を瞬かせるサボ。



「あ、起きた?」
「…何してんの」
「ほっぺ、つついてる」
「バイトは」
「お休み」
「……ふうん」
「…!」



ニッとサボの唇が吊り上がる。

それを確認するとほぼ同時くらいにほっぺをつついていた手がグッと引かれ、そのままサボの温もりが残る布団へとあっさり引きずりこまれた。



「…んじゃ、寝ようぜ」
「ちょ…!サボっ」
「なに」
「な…なにって!」


だって休みなんだろう?と。
私を抱え込んだままサボが囁く。

寝起き特有の掠れた声に、高目の体温。
体の奥底に染み入るようなサボの全て。
たったこれだけなのに、くらくらと。



「…もっと構って欲しい」
「構ってるだろ、今」
「そうじゃなくて…!」
「わがままなヤツだな」



ゆるりと私の髪を撫でながら
小さく小さくサボは笑った。

サボはこんなに余裕たっぷりなのに私の心臓はまるで早鐘だ。恋仲になって間もない少女みたいに貴方の全てに踊らされてると言うのに。



「サボは鈍感」
「いきなり何を…」
「私だけが好きみたいじゃん!」
「お前、ほんっとバカなんだな」



好きだからこうしてんだろ、
ちょっぴり眉間に皺を寄せたサボは、拗ねたみたいに唇を尖らせながら不満そうに呟いた。



「…だったらもっと…!」
「あのなー、おれだって我慢してんの」



わかりやすく溜め息をつくサボは、髪を撫でていた手をするりと私の背中から腰へと滑らせる。


「触りてぇし、愛してぇし」
「…サ、」
「でもおれは余裕なんてないから。きっとお前を壊しちゃうよ」



だから、我慢してんの、と。
また薄く笑って鼻の頭に口付ける。

ちゅっと小さくリップ音が響いたかと思えば、ほんのり赤らんだ頬のサボと目が合った。



「それに、お前だって寝てる時構ってくれねぇだろ」
「え?」
「あんだけちょっかい出してんのに」



背中や腰を撫でていた手が
不意に裾から中へ入ってくる。
サボの熱い手のひらが私の生肌をさする。



「…っ、」
「こうしたり」



指先で肌の感触を確かめるように
手のひら全体で包み込むように。

ジンとした熱さが
サボの手のひらから体中に広がる。



「さっきのお前みたいにほっぺ触ったり」
「起きて…たの?!」
「あたりまえ」



くつりと喉の奥で笑ったサボは
多分真っ赤であろう私の頬を
ふにりと人差し指でつつき始めた。



「つつくのに飽きたらキスをして」
「え…、きす?」
「お前の全てに触れてんのに」
「だっ…て」
「ちっとも起きやしねぇ。ねぼすけだな」



私が先程告げた言葉を
からかうように返すサボは楽しそうだ。



「それでもお前はもっと構えと?」
「あ…の、」



それでもいいよ、壊していいよ
だって貴方が好きなんだもの。

そう告げようと開いた唇は
いつの間にかサボのソレで塞がれて。



「…お前ね、煽りすぎ」
「あお…ってない、サボこそ…」



サボこそ、煽りすぎ。
未だに唇はくっついたままだと言うのに
お互いが声を出すもんだから。

サボの声は私の中に
私の声はサボの中に。

体中にとろける音が広がって
まるで一つになるように
まるで混じり合ってしまうように。

それらの感覚が
ふわふわと空を飛んでいるかのようで。



「…あー、ごめん」
「…サボ?」
「やっぱ、我慢できねぇわ」


唇から伝わる熱い吐息。
視線を上にずらせば、
少しの獰猛さを含んだサボの瞳。



「ナツ、大好き。すげえ大好き」
「ん…私も、大好きだよ」
「…だから煽んなって、壊しちまう」
「いいよ…、サボになら」



壊されても、いいよ。

ゆっくりと唇を離してから、そうサボの首元に顔を埋めながら囁けば、ピクリと小さく動いた熱い指。



「…もう知らね、ナツがいけないんだぞ」



ハァ、と頭上で溜め息が聞こえる。
顎を持ち上げられたかと思ったら、
今度は深く、ちょっぴり乱暴に
サボの唇が降ってきた。

それに応えるようにサボの腕を掴み
服の下で動くサボの手のひらに意識が持っていかれる。



壊されてもいいよと言ったけど、
私はすでに、貴方もすでに
お互いの全てに制御不能。





(タイトル一覧へ戻る)




「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -