出会って、恋をした

とても大きな、
大切で仕方のない恋

胸にしまっておきたくて、それでも気づいて欲しくて
欲しくて欲しくてたまらない、どうして気づいてくれないの

どうしてこんなに素敵な恋を

共有出来ないのだろうか




「お疲れ様」

「あ、おつ……かれ」

「はは、どうしたの。随分と上の空だな」


今日は金曜日だ
仕事は定時に終わった

何をするかなんて、
恋人もいない私のやる事はひとつしかない
家で大好きな焼酎をちゃぷちゃぷグラスについで
「今週もお疲れ様」なんて一人酒も悪くはない

それでも今日は家で呑みたくはなかった
たまにあるのだ、こうやってバーで呑みたくなる事が

このお店は誰に聞いたっけ
確か、シャンクスだったかな
女が寂しく一人でも呑みやすい店を知ってるぞ、なんて
失礼な笑いを含んでシャンクスはそう言った
ありがとう、なんて片手に返事をしたつもりが、
来てみて吃驚だ

ここは中々、いいお店

少し暗い照明と、しっかり女性の店員さんがいる事で
なるほど、これは確かに一人でも呑みやすい

私は一番奥のソファー席に腰掛けて、ちびちびカクテルを呑んでいる
ああ、美味しい
なんて美味しいんだろうか
これが一人じゃなければ、なんて
誰にも聞こえない程に小さなカラ笑いをすれば急に耳に届く、聞き慣れた「お疲れ様」

効果音が聞こえるほどに勢いよく顔を上げれば、
暗い照明でもわかるくらい、ゆっくり優しく
大好きな笑ったそこには顔があった



「一人で呑んでいるんだな」

「う、うん……サボは、何を?」

「俺?酒を呑みに来たんだよ」

「一人で?てかこんなお店で呑むんだね……」

「あぁ、帰りにね、シャンクスに会ったんだ」



「いい店だ、今日行ってこい」
なんて笑いながら背中を叩かれれば行かなきゃね?

そう言ってサボは私の前に腰をおろした
それは何を呑んでいるの?とか、美味しい?とか

サボは立て肘をついて質問をしてくる

いつもは真面目でピシッとしているのに
少し緩めたネクタイから見える肌に心臓が速くなる

どこに目線を置けばいいか分からない
だって私はサボの事が好きで好きでたまらないのだ

先程までサボの事を考えていた
届かないって思うから

同じ職場でも、あまり関わりがないから
普通に話すことは出来るけど、それでも人気のあるサボと一般的な私とは釣り合わないから
私は見ているだけだと思ってた

まさかこんなに近くにいるなんで
まさか一緒にお酒を飲めるだなんて


嬉しいはずが、緊張しすぎて手先が震え、それどころではない

そもそもどうしてこんな所で会うんだろう、シャンクスめ
そうか、全てはシャンクスのせいか
心中でシャンクスに舌打ちをしてやる
聞こえてなどいないなら、した者勝ちだ


「どうしてこっちを見ないの?」

「えっ」

「あ、目が合ったな」

「ごめ、シャンクスの事考えてて、って違う!何を言ってるんだ私はっ」

「……へぇ、どうしてシャンクスの事を考えなくちゃいけないんだ?」

「え、えっと……サボ?」


どうしたの?
微妙に変わった空気に、口から言葉が出る前に、サボはお酒を運んで来た女の店員さんに「ありがとう」と凄く色気のある笑いを返していた
店員さんが、頬を染めたのが分かる

だって、格好いいもの
そんな顔で笑わないでほしいな、私だけが見ていればいいのにな


「ねぇサボ、っん!」

「また、シャンクスの事?」

「!、はっ、え、待って……サボ?」

「静かに、君の声は俺にさえ聞こえればいいから」

「んん!ん、っは、サボっ!」


どうしたの、サボ
どうして口を、塞ぐの

唇に、サボの掌があたって熱くなる
サボが私に触れている

それだけで頭がおかしくなりそうで
まっすぐに見つめられたサボの瞳に自分が映った

こんな顔、しているんだ


「サボ、っ」

「静かにって聞こえなかったのか。誰にも聞かせたくないんだ、嫌なら俺の手を噛めばいい」


口に当てられたサボの右手
塞いだまま親指だけが、そっと私の頬を撫でた

その手に擦り寄れば
「いい子だね、」そう言ってサボは自分のお酒をグイッと煽る
唇に空気が触れた

あぁ、手が放れたのか、
そう思った瞬間、さっきとは違う感触と
一気に酔いが回りそうなほどクラクラする大好きなサボの匂いが鼻をつく


「んんっ!」

「……はっ、飲んで。溢したら、許さない」

唇で塞がれて、キスをしているんだと解った
許さない、フッと笑ったサボの顔が酷く色っぽくて
言われた通りにゴクッと喉を鳴らしながらサボから口移しされたものを飲み干した

ちゅっちゅ、
とリップ音が聞こえる

意識が遠くなりそうだ



「好きだよ、ものすごく」


優しく、意地悪に笑ったサボの左手には
少しだけグラスに残った



ハイ ライフ



【溢さず飲めたら、君は俺にふさわしい】





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