「何をそんなに怒っているんだ?」

「怒っていないわ。お願いだから話し掛けないで」



優しいとか、格好良くてお洒落だとか
そんな風に周りは言っている

どうしてバレてしまうのだろうか
優しいのも、格好良いのも、
全て私だけが知っていれば良い話なのに。ああ、そうだ。優しいからだ。
サボは、周りにも優しいからだ

私への態度と、周りへの態度を変えて欲しいだなんて
そんな事、一言でも寝言でも、
言える訳ないじゃない


言える権利がないのだ


だって私はサボの

恋人でもないの、幼馴染みってやつ


幼馴染みなんだから、昔から一緒にいるのだから何でも知っている
サボの事ならなんでも分かる

笑っちゃうなぁ
どうしてそんな風に周りは言うのだろう
私はサボを、何も知らないのに


小さい頃から社会人になった今でさえ
ずっと飽きずにサボを追ってきたくせに、
何も知らないだなんて、呆れる



「聞いているのか?」

「聞いてない、話し掛けないでって言ったわ?」

「そうか、それは聞いていなかったね」

「馬鹿にしてるの?」

「まさか」

「じゃあ!」

「そんなに怒るな、とりあえずコレを片付けないか?」


パソコン画面を人差しゆびでトントン、と叩く
フッ、と口元に笑みを乗せた

そんなサボの表情は分からない
何を考えているんだろう


そもそも、どうしてサボは私の仕事を手伝ってくれているのだろう
今日も今日とてシャンクスを撒けなかった
あの上司、私のキャパを知らないんだ

だからこんな大量の仕事を定時過ぎに突きつけるんだ
鬼か、鬼だった



「サボは……ずるい」

「俺が?どうしてか教えてくれる?」

「だって……」



サボはずるい


私の気持ちに気づいている癖に
私が、昔からサボの事が好きで好きでたまらないって、

知ってるくせに


それを何も言わない

同じ大学を受けた時も、
同じこの会社に入社した時も

妹を見るような顔で「一緒に頑張ろうな」って笑うだけだ

何で同じ大学なのか、会社なのか、
聞いてくれれば「サボが好き!」って言えるのに


今日サボは、美人でスタイルが良くて、仕事が出来て有名な子に呼び出されてた
仕事で聞きたい事があるって、言われてた


付いて行けばほらね、告白だ
まさか社内であるとは吃驚だけれど、
やっぱりサボはモテるなぁ

それでもサボは「そうか、ありがとう」と優しく笑ったんだ
肯定も否定もしない

意味が分からない

私の機嫌が悪いことに気づいているくせに、理由を聞かない
サボは何も……聞いてはくれない



「なぁ、知ってる?」

「何を?」

「はは、話してくれたね」

「なっ!別に、私はサボと話したくないけどサボが質問して、くる……から」

「うん、そうだね」

「……な、なに?」

「あぁ、あのね」



どうして手を取るの
私の気持ちを聞かないくせに、気づかないフリをしているくせに
どうしてそんなに、手を
握ったりするの


「サ、サボ……」

大きくなって初めて触った
サボの手は綺麗だった

長い指に私の指をからめて
少し派手に施した左中指のネイルを撫でられた

トクン、トクン、と
指先から音が漏れそうで


サボの顔をゆっくり見上げれば、見たこともない色気に包まれた
まっすぐ瞳を覗き込まれた
視線が熱くて熱くて、どうにかなりそうなの

こんなに恥ずかしい沈黙ならば
いっそ好きだと言ってはぐらかしてしまいたい


「サボっ!」

「恋の悩みや嫉妬はすべて退屈のなせるわざだ」

「……え?」

「惰性に押し潰されたんだね」

「サボ、」

「知らない?この言葉」

「し、らない……」

「そうか、知らなくてもいいよ。さて、仕事が終わったら」





「部屋へおいで」






【そんな悩みや嫉妬をする暇なんて、あげないよ】


背中に大きな甘い痺れ
耳たぶに舌先が、触れた


クツクツ笑う声が聞こえて
頭がぐわん、と回る前に甘い甘い

匂いがした


小さく、
小さく聞こえないように、好きと呟いた


聞いてはくれない
聞き返してはくれないけれど、

口元にいつもと違う笑みが乗っててドキドキドキドキ


音がした






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