水着なんて着たくないのに。 真っ白なTシャツで全部を隠し、拗ねた足を桟橋の波間で遊ばせて、戯れる男達を眺めていた。
ルフィとエースが海に行くぞとか言うから、サボと二人きりで映画を見に行く筈がこうなってしまった。結局こうなるのかと憂鬱度はとうに振り切っていたけれど、更に水着を用意しとけなんて言うからもうたまったもんじゃない。
これだけはと必死に回避してきたのに、涼みに入ったモールでナツにはどれが似合うかなんて論争が始まるから好きでもない水着を買う羽目になって。そしたら後は強制的に事は進んで、拒否権なんてのはなくなっていた。
夏は毎年やってくるから一見終わりがないように思える。でも必ず年を跨ぐ次の夏。その頃には一つ歳をとった私達がいて、良くも悪くも変化した関係に変わるのだ。それぞれの道を歩み始めたり、あの三人のうち誰かが遠方へ行ってしまったり。あと、実ったり実らなかったり。 好きな人には変化を望むくせに、二人には維持を求めて押し付けた我儘さ。この夏を少し苦い色にした自分の狡さも、去年には無かったものだ。
色んな可能性があるし、来年の私達がどうなっているかなんてのは誰にも解らない。
でも、私達四人は「一緒にいると楽しい」という純粋な理由だけで共に過ごしてきたのに、 こんな風にはいられなくなる日が来るかもしれないと思うとそれだけはどうしても嫌で、それなのにその中で君だけが、誰よりも輝いて見えるからこの夏ごと独占したくなってしまう。前の夏には無かった特等席から、今の君を見られるのはこの夏しかないのに、と。
「似合わないって言ってるのに」
海の家に全力疾走する彼らの背を見ながら、蹴り上げる海水を鬱々と飛沫に変えていく。すると突然、無防備に揺らし続けた足首に衝撃が走った。
消えていく泡の行方に夢中だった私はあっという間に引きずり込まれて海に落ち、鮫かもしれないと慌てて顔を出した水面で楽しげに笑う犯人と目が合う。
背伸びギリギリの水深が苦しくて腕を掴めば、瞬く間に目線がサボの背丈を越えた。
「俺は似合ってると思うけど」
「ちょっと!!!危ないでしょ!!」
抱えるように腕に乗せ、むせる私の背中をさすりながら桟橋の影に入ったサボは、限りなく透明に近くなった真っ白を眺めていた。
「もう意味ないな」
「誰のせいよ」 濡れた髪を束ねて絞る間に、目をそらせた君が妙な沈黙を作るから、こっちまで剥き出しの肩に触れているのが今更ためらわれる。
「……………ちょっと。偉そうにしておいて真っ赤になるのやめなさい」
濡れた手でぺちっと頬を叩いてやれば、自嘲気味に笑って手を重ねてくるから、照れているんだと少しばかり油断した。
「ねえ、あの二人にいつ言うの?私達の事」
「もう少し、先にしておこう」
同じ迷いを持った君が欲望に負けた瞬間、凛々しさの戻った瞳とスローで重なる唇、濡れた髪と腕の温度差に世界が止まる。
「悪い事してるみたい」
「じゃあもっと悪い事して忘れようか」
少しだけ。今だけ。
首筋を噛じる熱さに呼吸を忘れ、思わず身をよじれば、二人の間で揺れる波はそれすら楽しむように静かに揺れる。桟橋から射し込む太陽に瞳を閉じて、いつまでも溺れ合う頭上で、探し回る二人の足音を聞いていた。
【太陽に請願】
誰かの想いに目を閉じておきながら、できるなら何度夏を巡ってもなんていう我儘は、私達より遥かに長生きなあの太陽に、届くのだろうか。
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