何度も何度も、あなたに向かって走って行く。 同等に並びたくて、あなたと同じ景色を見たくて。 あなたが感じるものを共有したくて。 今日も私は、勝算のない勝負を仕掛けに行く。
「さぁサボ!勝負よ!」
続々と船員が起き出すこの時間。 きっと彼ならばとっくに起きてる頃だろうと思って、バンッと勢い良く扉を開ければ、上半身裸のオトコがいた。
「ぎゃ!!なんで上着てないの!?は、破廉恥め!!」 「…この場合おれが悪いのか?返事もしてないのに入ってきたのはナツだろ?」 「バカバカバカ!早く!」
バクバクとなる心臓に呼吸までおかしくなりそうだ。 目に焼き付いて離れない、鍛え上げられたその体に顔が火照ってどうしようもない。 本当にどうしてくれるのか。
まさかこれも作戦…!? おのれ参謀総長め…そうまでして私との勝負に勝ちたいか…!!
「全部声に出てるし。ったく…」 「う、わっ!!」
ぐっと首に回された力強い腕に、治まりかけた鼓動がまた騒ぐ。
「んで?今日は何の勝負って?」 「う、あ…そ、その前にこの腕を離せええ!!」 「おっと」
裏拳の要領で回した腕もパシッと取られたけれど、腕の中からの脱出には成功した。
「甘いな!!」 「なにが。まだ捕まったままだろ」 「でも腕の中から逃れたらこっちのも…」
言いかけた言葉は、サボのニヤリ顔によって消された。
「…おれの技、忘れてる?」
サボの手が、ゆっくりと移動する。 親指、人差し指と中指、薬指と小指…そうこの鉤爪の形をした手は…とても危険!!
「バカバカ!!私の細腕を粉砕する気!?」 「んな訳ないだろ。んーでも、今回の勝負はおれが決めるぞ」 「な、何よ」
少しビクビクしながら尋ねると、サボは楽し気に口元を緩めてぐっと顔を近づけてきた。
「!」 「どっちがどっちをオトすのが早ェか、勝負しようぜ」 「っえ、は!?」 「大丈夫、どっちにも勝算はあるから」
この場合、落とし穴に?とかのボケは求められてないんだろう。 楽し気だけどどこか真剣なサボに、顔の熱は引くことを知らない。 どっちにも勝算があるなんて、一体どういうことだ。
「じゃ、朝飯食ったらスタートな」
何でもないことかのように離れたサボに、つい言ってしまった。
「ま、負けないから!」
売り言葉に買い言葉、流れのように返したが果たして彼女が意味に気づくのはいつだろうか。 勝負のような勝負でないこれに、サボは緩む口元を隠す気もない。 勝者も勝算も何も無いこの勝負、彼女が気づくのは大分後の話である。
【勝算】 相手に勝てる見込み。勝ち目。
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