あれから彼の飼い主に連絡をして、彼を保護したこと、お話したいことがあるからお伺いしたいことを伝えた。
相手からは保護したことへの感謝と話の件の了解とこの時間に来てほしいとのメッセージ。
あとは飼い主のもとへ行き交渉するだけとなった。

そしてふと気が付けば彼の飼い主の家の前。
普段は着ないような堅苦しいダークグレーのスーツに銀色のアタッシュケースを左手に。
そして半歩後ろには帽子を目深に被ったネコ。
一回深呼吸をしてインターホンを押す。
ピンポーンと軽く響くチャイム、少し待つとインターホンのスピーカーからノイズ交じりの声が聞こえた。

『はい』
「先日お電話いたしました、一と申します。」
『ああ、068を保護してくれた人ね……、今開けるんでちょっとそこで待ってください。』

ぶつりと切れ、すると一分もしないうちに玄関が開かれる。
出てきた人物は、僕よりも年上で釣り目のキツイ男性だった。
飼い主は僕と目が合うと慣れないように笑みをつくった。

「今回はうちのネコを保護して下さってありがとうございます、さぁさあがってください。」
「お言葉に甘えまして、ほら歩くよ」

僕のスーツの裾を掴んでいたネコに合図をし足を進める。
天堂は僕を見定めるように目線を動かして、ネコを見る、一瞬無表情になったがまたすぐに笑みをつくった。
僕たちは客間らしきところに通され、趣味の悪いソファへと座ると向かい側に飼い主が座った。

「改めまして、一音々と申します、このたびはお時間をいただきありがとうございます。」

そう笑顔で言いながら名刺を差し出す、飼い主は名刺を受取り読むと怪しい笑みを浮かべる。

「イイトコの社長さんなんですね、そんな方がいったい私に何用でしょうか?」

「単刀直入に言いますけど、この子を僕に譲っていただけませんかというお話です。」

「……そのネコを?」

「はい、気に入ってしまって」

「そいつから聞きませんでしたか?売れ残りだったって」

「聞きましたよ、けどどうしてもこの子がよくて」

「貴方のような方にそんな売れ残りは勿体ないですよ、他に綺麗なネコが居るんですけどご覧になりませんか?」

「他にもいらっしゃるのですか?」

「ええ、ほかのネコも目隠しは外していませんから」

にこやかに笑った飼い主は「ちょっとお待ちくださいね」といって奥の部屋に引っ込む。
隣りに座る彼をみると耳をさげたまま俯いている、昨日の夜彼から聞いた話で彼以外にも目隠しをしたままのネコがいるとのことだった、そのネコたちは目隠しをしたままの生活を強いられそれが強いストレスになりあまり喋ることも物を食べることもしなくなってきていると。
僕はその話をきき、彼だけではなくそのネコたちもこの家から出すことにした、ネコを飼おうとしているといった友人にこの話をすると快くそのネコたちを引き取ってくれるといった、だから引き取ったネコの行き先は安心である。
奥の扉ががちゃりと音を立てた。
飼い主と、2人のネコ。
1人目は綺麗な金色の髪のネコ、2人目は1人目とは色味の違う金色の髪のネコ。
どちらも彼と比べると幼い体つきだ、飼い主は元々こういう子が好みなのだろう。
彼を選んだのは金色の髪だったから、だろうか。

「どうです、綺麗なネコでしょう。」

「そうですね、とっても」

「でしょう、私の自慢のコレクションなんですよ。」

飼い主は自慢げに笑って自分の隣にネコたちを座らせる。
僕はわざと品定めをするようにネコ達をみると、にっこりと笑顔を浮かべる。

「お宅のネコはこの3人で?」

「ええ、ネコは値が張りますからね」

「そうですか」

飼い主は笑みを浮かべたまま。

「どちらになさいますか?」

僕も笑みを浮かべたまま。

「では、3人とも譲っていただけますか。」

僕の言葉に飼い主はピシリと固まる。
そのまま僕は続ける。

「言い値で買いますよ」

持ってきていたアタッシュケースをテーブルに乗せると飼い主に見えるように小さく開く。
飼い主はもう釘づけだ。
そこからは話は早かった、飼い主変更届へのサインと引き換えにネコのお金を渡し、足りない分は後日口座に振り込むこととなった。


3人を自分の車に乗せて自宅へ帰る。
車内では、小さな2人のネコはお互いに身を寄せ合い、大きなネコは楽しげに耳を揺らしていた。
自宅につくと友人が待っており、小さなネコ2人は友人の元へと引き取られていった。
残ったのは僕とネコ。




二人でソファに座る。
ネコは楽しげに耳を揺らしたまま。

「ごめんね、あんまり綺麗な方法じゃなくて……」

「俺の方こそごめん、高くついちゃったでしょ」

「ううん、それはいいんだよ、君を欲しがったのは僕だから」

「音々ありがとう、ねぇ、音々、目隠しとって……」

「……君は本当に僕でいい?」

「俺は音々がいい」

僕は彼の方を向いて腕を伸ばす。
その目隠しはやけに簡単に外れて、彼の深い緑色のつり目が現れる。
その瞳は僕を認識するとふにゃりと緩められる。

「ねね、これからよろしく」

「こちらこそ、よろしくね」

二人見合わせて笑う。


我慢できないと言い出した奏音が僕を押し倒すのはまた別の日の話。



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