恥ずかしくって逃げてしまった。
いくら恥ずかしかったからって、いきなり逃げるのは…だめだよね…。
…配達のときに会ったら跡部くんに謝ろう。
そしてニックネームは勘弁してもらおう。
「よう能勢川」
「おはよう跡部くん…」
「あーん?」
いつも通りの挨拶。
跡部くんが普通にしているので、昨日のことあんまり気にしてないかな、と思った矢先。
跡部くん、と呼んだ私を、彼が睨む。
「昨日の呼び方はどうした」
「あ…その件、ちょっと勘弁してもらってもいいですか…」
結構覚悟を決めて言ってみたけど、跡部くんはますます私を睨んだ。
「敬語も直ってねえな」
敬語は初耳です跡部くん。
「逆に聞くが、何故言えねえんだ」
「恥ずかしいです、単純に…」
「だから、何が」
うーん。
ちょっとこれは、伝わりにくいかもしれない。
どうしよう。
「……チッ。そんなに呼びたくないならもういい。」
あ、諦めてくれた。
でも怒らせてしまった。当たり前だ。
「ごめんなさい…」
「俺様の方から距離を縮めてやる。今からお前を名前で呼ぼうじゃねーの」
…えっ。
予想の斜め上の発言。
何故か跡部くんが生き生きしだした。本当に何故。
「柚子」
「は、はい」
よ、呼びだした。
本当に呼びだしたぞ。
これはこれでよかったのか。
「…ふっ、これで距離は縮まったな。そろそろ親友レベルだろ」
「えっ」
「何だよ」
「あ、いえ……えっ?親友?」
跡部くんってそんなこと気にしたりするのか。
「まだだめか」
「えっと…」
正直に言えば、
すごく嬉しい。
まだ対等になれてないかな、なんて思っていたのに、親友だなんて。
色々過程を飛ばしているけど、彼が言うなら親友な気がしてきた。
「…はい、親友ですね!」
「!」
口をついて出るほどの嬉しさ。
満足そうな笑みで頷いてくれる跡部くんのお陰で、私は今日も幸せです。
親友なんて初めて出来たなあ。