「もう一回じゃ」
「……ま、まーくん…」
「もう一回」
「ま、ま、………」
「何してんだお前ら…」
仁王さんにからかわれている現場を、跡部くんに目撃されました。
「プリッ。ただの世間話ぜよ」
「嘘つけよ」
はあ、とため息をつく跡部くん。
一方私は恥ずかしくてたまらない。
「もう勘弁してください仁王さん……」
恥ずかしいを通り越してだんだん絶望すら感じてきた。
「だーめ、また仁王になっとる。まーくんじゃろ」
「えっ…」
跡部くんがいるのに…?
とびっくりしていると、跡部くんがじっとこっちを見てくる。
「あ、跡部くん…これはですね…」
「へえ。能勢川、ずいぶん他校と仲がいいんだな」
にっこりとする跡部くん。
美しいけど、なんだか、怖い、ような。
「俺様には未だに敬語だっていうのにな?」
跡部くんからダイヤモンドダスト。
ここの空気は冷えきっています。
なにこれこわい。
「も、申し訳ないです…」
「ほうら敬語じゃねえか」
つん、と拗ねる跡部くん。
隣では仁王さんがくっくと笑っていた。
この状況に困りすぎて、私どうすればいいのか。
あっ、ちょっとだけ泣きたくなってきました。
「にお…じゃなくて、えっと、…まーくん。た、助けてください…」
「んー、そうじゃのー」
とりあえず仁王さん(心の中ではもう仁王さん呼びにしました。)に助けを求めると、仁王さんは考える素振り。
そして私にこそっと、
「ニックネームで呼んでみたらどうじゃ」
と言った。
えっ、つまりどういうことですか。
仁王さんを見ればけたけた笑うだけで、もう解決策はくれないようだ。
…じ、自分で解決せねば。
跡部くんのニックネームって何だろう。
何だか恐れ多い感じだ。
しかしもらった策は試さねば。
…よし。即興しかない。
跡部くんだから…
「あーくん……!!」
その瞬間、私をみて硬直する跡部くん。
そしてネーミングが安易すぎる私。
これにはさすがのキング跡部くんも怒るか。
当たり前だ。
なんだか家計簿事件を思い出すなあ…。
「…能勢川」
「はい」
しかし今回は勝手が違う。
非があるのは完全に私の方。
変なニックネームつけてごめんなさい。本当に。
土下座も辞さない覚悟だった私。
しかし彼の言葉は、完全に予想外。
「毎日そう呼べばいいんじゃねーの!!」
跡部くんが急にご機嫌になった…。
えっ?えっ、どういうこと?
「なかなかやるぜよ柚子」
「に…ま、まーくん、どうすれば…」
「まーくん、そろそろ電車の時間でのう」
「この状況を残して!?」
まさかの仁王さん離脱。
救いは断たれた。
「さあ能勢川!あーくんと呼べ!!」
「えっ、ま、まーく…」
「アデューじゃ柚子、達者での」
「急に外国語!!」
もうどうしようもありません。
「呼べねえのか?さっきみたいに呼べばいいだろ!」
「う、うう…」
「どうした能勢川!」
「…よっ…、呼べません……!」
ああ、ごめんなさい跡部くん。
そう心の中で謝罪しながら、私は真っ赤になってそこから逃げた。