「ねえ、跡部くんと能勢川さんって、付き合ってるの?」
「………えっ?」


そう衝撃を受けたのは放課後。
クラスメートの女の子と、ほか数人の見知らぬ女の子に囲まれる私。
ど、どういう状況?

「いえ、そういう間柄ではありません、けども」

むしろそういう間柄だったらと思うと恐れ多い。
私は結局、跡部くんをかなりの人格者だと尊敬しているのだから。
ちょっぴり俺様だけど。

「そっか、よかった」
「よかった…って?」
「えっとね、私たち、跡部くんのファンクラブなの。だからやっぱり、跡部くんには彼女いないでほしいなって。」

ファンさんたちだけの跡部くんでいてって感じかな。
なるほど。
いや、はにかむ彼女たちはかわいらしい。
純粋に彼のことを想っているから、そういう気持ちがあってもおかしくはない。
けど。


恋愛というのは自由なければいけないのではないか。


たとえ跡部くんでも、誰を好きになるとか、そういったことは自由でなければ。
そっか、と答え隠す私は、最早彼女たちと大差ない。
ああ、跡部くんに会わせる顔が、どこにもない。



「能勢川じゃねーの」
「あっっ、とべ、くんっ」

なのに何故帰りにご本人に出くわすのか。
そのご本人は唖然顔で、首をかしげた。

「どうした、そんなに動揺して」

具合でも悪いのか?と尋ねてくれる彼に、心底土下座したい。

「ごめんなさい、跡部くん」

自然に言葉が落ちるのが分かった。
当然、跡部くんはきょとんとする。

「いや、ほんとに、言葉だけでも、受け取って…」
「能勢川?お前は謝るようなことをしてないだろ?」
「これがですね、してしまったと言いますか…」
「そうなのか?」

頷けば、彼は思案顔になった。
そしてしばらくしてきれいに笑むと、

「今謝ったからいいじゃねえか」

そう言ってくれた。
私は一本取られたような気分になって、笑顔につられて笑った。


跡部くんが女の子にもてる理由が、よく分かる。
跡部くんが私の詩を教科書だと言うなら、跡部くんの言葉だって私の教科書だ。



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