またやって来てしまった氷帝テニス部。

「能勢川。俺様の美技、しかと見ておけよ」

今回はなんだか跡部くん直々に技を見せてくれるみたいです。


見終えた私は、ひたすら唖然とした。

「どうだった」
「の、ノーコメントで」
「あーん?なに言ってんだ、何かしらあるだろ」
「いえ、ノーコメントで…」

だめだ。
私の言葉では、この凄まじさを表現することは出来ない。
丸井さんも相当凄かったけど、跡部くんのこれは。
テニスに詳しくない素人だけど、跡部くんのテニスは芸術と呼べるはずだ。
こんな世界があっただなんて、知らなかった。
人間業なのかな、あれ…。

「能勢川」

考え込んでしばらくして、跡部くんから声がかかる。

「な、なんでしょう」

見れば、少しだけむすっとしていた。

「何も思わなかったか」
「えっ」
「丸井のが良かったかよ」
「あっ、そういうわけじゃ、」
「なら何か言え」

……。
まあ…そうなるよね…。
なんと言えば良いのか、私は上手な言葉なんて持っていない。
そのまま白状しよう。

「言葉に出来ないというやつです。跡部くん、凄かったから」

途端、跡部くんの顔が輝いた。

「ふっ…当たり前だぜ能勢川!そうかそうか、言葉にならない程感動したか!」

露骨に喜ぶ彼は、なんだかちょっぴりかわいらしかった。
つまりこれ、言ってよかったんだよね。
とても安心。


時間が経つのは早いもので、部活のすべての過程が終わった頃には、もう六時過ぎ。
前より遅い。
日が落ちるのが早くなってきているのに、頑張り屋な部活だ。
単純にすごいと思う。

さあ帰ろうと見学中座っていたベンチを立つと、跡部くんから声がかかった。

「能勢川、こっちに来い」
「?」
「いいから」

ついていくと、コートの裏に着いた。

「見るだけじゃつまらねぇだろ。ほら、やってみな」
「えっ」

そう言われ彼のラケットを渡される。
…打ってみろってことかな?

「やってみると楽しいもんだぜ、能勢川」

正しいラケットの持ち方だろうか、跡部くんは私の手を取り、ラケットを握らせた。

「ん。これで打ってみろ」
「は、はあ…」

もう片方に渡されたボールを上げ、ぱこん、と打ってみる。
ボールはすぐ前の壁に当たり、足元に転がってきた。


いい音。
なんだか少し嬉しい。


そんな私を見て、跡部くんは笑った。

「ナイスショット」

私もつられて、笑顔になった。




何球か打って思ったのは、スポーツって、テニスって、いいなあ。
ただ、それだけ。
氷帝のテニス部は、いいところだ。

「送っていく」
「大丈夫ですよ。そう遠くないし。」
「ずいぶん遅くにさせちまったからな。詫びだと思って、送られろ」

まさかの命令形だった。
私は申し訳なくも跡部くんに送ってもらうことに。


気遣いが嬉しくて仕方なかったのは秘密である。



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