「甘露飴さん、お楽しみのとこ悪いんだけどさ」
「はいっ、何でしょうっ?」
「そろそろ席取り行こうか」
それはもうすこぶるお祭りを楽しんでいた私に、丸井さんがそう言う。
何の席取りですかと聞けば、
「花火に決まってんだろぃ」
彼は不敵に笑って言った。
いつの間にか丸井さんに推されて、一番よく見える場所を陣取らせてもらっていた私。
そして両隣に丸井さんと仁王さんが。
…なんだか気を遣わせてしまったようで申し訳ない。
「あの」
「どうしたんじゃ」
「何だ?」
「私、端っこ行きましょうか?」
そう言うと、丸井さんと仁王さんが顔を見合わせて笑った。
「そんなん気にすんなって」
「レディーファーストってやつぜよ」
「そ、そうですか?…じゃあ、お言葉に甘えて」
何故笑っているのか分からないけど、お二方が楽しそうなのでいいや。
そして打ち上げ花火が始まった。
花火の開く瞬間の音が、太鼓みたいに胸を打つ。
この、奥に響く轟音が好きだ。
「嬉しそうにしてさ、かわいいよな甘露飴さんって」
「えっ?」
丸井さんの声がした。
だけどその台詞の大半は、花火でかき消されてしまう。
「すみません…もう一度…」
「んー?別に大事な事でもねえし、いいよ」
「そ、そうですか?」
本人がそう言うならいいか、と前を向き直した。
すると仁王さんが隣でくっくと笑っているのが目に入る。
「丸井、ちょ、おまえってやつは、笑かしてくれるのう…っ」
「うっせー仁王。黙ってろぃ」
二人の会話に、ますます訳が分からなくて「?」が飛んだ。
私がきちんと聞き取ってなかったのが悪かったんですか。
もしそうだったらどうしよう。
すると私の動揺に気づいたのか、笑っていた仁王さんが言った。
「平気じゃ、お前のせいじゃなか」
子供をあやすような声に、私はとても安心する。
…ん?これは子供扱いされているのでは?
花火も無事見終わって、お祭りの帰り道。
結局私は二人に家まで送ってもらってしまい、終始申し訳なくてたまらなかった。