「ただいま我が家!」
学校再開まであと一週間。
名残惜しくも熊本から帰還しました。
「うわあ、やっぱりちょっと埃っぽいな…」
人がいないとこうも埃っぽくなるとは。
掃除して出てきた筈なのに。
机の上の埃をすくい取り、ついため息をつく。
「…明日から新聞配達再開だし、掃除もしなきゃだめだし…」
これは忙しくなるなあ。
「どこに行ってやがった、能勢川」
「……」
翌日、跡部くん宅前。
凄まじくご立腹なご様子の跡部くんが、仁王立ちしていた。
「く、熊本、ですけど」
「何故だ」
「旅行です…祖母に呼ばれたから」
「国内なんて旅行のうちに入らないぜ」
お、お金持ちだ。
お金持ちの台詞だ。
「そ、そんなこと言われてもなあ…うーん、ちゃんと代わりの新聞配達さん来てましたよね?」
「来てた」
「ならいいじゃないですか」
「よくない」
分からない。
何がよくないのか。
代わりに入ってくれた人と顔合わせしたが、礼儀正しい人だった。
むしろ私なんかより仕事早い人だし、何が不満なのかな。
「…いやだ」
「え?」
「っ、能勢川が配りに来ないと嫌だ!!」
彼の後ろに控える、大きな庭に響きわたりそうなほど。
まるで幼子のような台詞は、大音量で私に届いた。
「同じ学校で同じ学年の…っ、お前でないと許さん!」
「は、はあ…」
「返事!!」
「は、はいっ!」
よく分からない、未だよく分からない。
分からない、けど。
半泣きで「分かったならいい」と私をどつく彼は、非常にかわいらしかった。