私は頭が回らない人間だなあと思った。
他校生で仲がいいなんて、大概部活関係で成り立っているだろうに。
「どう、天才的?」
「マジマジ天才的だよ丸井くん!かっこEー!」
連れてこられた先はテニスコート。
入るや否や、すぐに試合を始めたお二方。
そう、丸井さんがテニスプレーヤーだから、芥川くんと接点があったのだ。
それにしても、てんさいてきみょうぎとやらはすごい。
球がネットつたったり鉄柱に当たったり、丸井さんはずいぶん器用な人だ。
「どうだ甘露飴さん、天才的だろぃ?」
「えっ!?は、はい、てんさいてきです!」
いきなり声をかけられたため、簡単な返答しか出来なかった。お恥ずかしい。
丸井さんは嬉しげに笑って、芥川くんとの試合を再開した。
しばらく見ていて、ふと気づく。
すごくスタミナあるんだなあ。
ああいった部活の成果を見ていると、部活をしていない自分が悔やまれる。
「…部活、すればよかったかな」
「なに、甘露飴さん部活してねえの?」
「そうなんですよ…って丸井さん!?」
「うん」
試合、試合はどうなったの。
目の前に移動していた丸井さんに動揺しながら、テニスコートを見る。
そこには、前のめりに倒れた芥川くんが。
「えっ…ええええ芥川くんんん」
「力尽きたみたいでさ」
「起こしてあげてください!」
急いで芥川くんのもとへ走り、ぐったりした彼を起こした。
「芥川くん、しっかりっ」
「…丸井くん天才的…がくり」
「芥川くーん!」
歪みない尊敬を残して、動かなくなった芥川くん。
揺さぶってみれば規則正しい寝息が聞こえてきたので、眠ったと分かり安心した。
「ジロくん寝ちまったのか」
「はい、そのようで…どうしましょうね」
「うーん、家に送ってくにも、ジロくんの家知らねえからなあ」
「私もです…」
「…起きるまで待つか」
そうして芥川くんをベンチ一つ分に寝かせ、私と丸井さんは隣のベンチに座った。
重い無言を破ってくれたのは、丸井さんからだった。
「なあ、甘露飴さんは何で部活しないの」
「やりたいっていう部活がなくて…」
丸井さんはふーん、と流すだけで、特に追求はしてこない。
私にとっては楽な空気だ。
「でもさ、何だってやってみりゃ楽しいもんだろぃ」
「そういうものなんですかね?」
「少なくとも俺はな」
不敵に笑う彼の言葉は、なんだか力がある。
柄にもなく、その気になってしまいそうだ。
「なんか、丸井さんと話すのって楽しいです」
「ん、俺も甘露飴さんと話すの楽しいぜ!」
今度の丸井さんの笑顔は無邪気で、なんだかこっちまで笑顔になった。
しばらく話していれば、芥川くんが眠りから覚め、各自帰ることに。
私はまだ丸井さんと話し足りなくて、少し渋っていた。
すると丸井さんがそれに気づいたのか、またあのスーパー行くから、と言ってくれたのだ。
ついにやけていると、芥川くんが不機嫌になる。
丸井さんと話してばかりだから、恨まれちゃったかな。
と思っていると、芥川くんが睨んでいるのは丸井さんのほう。
…何故だ。
「帰ろ、能勢川」
「…芥川くん、その方向は私の家と逆だよ」
「すぐ帰るのー!」
「ええー…まあ別にいいけど…」
地団駄を踏み始めた芥川くんの気迫に圧され、彼の家路に付き添うことに。
「ジロくん独占欲強すぎだろぃ」と爆笑している丸井さんを後に、私と芥川くんは帰路につく。
独占欲が強い、ということは、友達として大事にされてるということなのかな。
いや、むしろそれ以外の意味が思い当たらない。
そして悲しきかな、私は家路の二倍の距離を歩くこととなった。