教室に帰ると跡部くんはおらず、その後家計簿事件(勝手に命名)の翌日。
梅雨にしては珍しく晴れていた。
新聞配達をしていると、いつものように跡部くんは立っていた。
どうしよう。気まずい。
マッハで届けて、マッハで去ろう。
うん、それがいい。
芥川くんも何も言わなくていいって言ってたし。
跡部くんなんて怖くない、跡部くんは白菜、白菜。
よし、白菜だ。

「待て、能勢川」

逃げる気満々だった私は、ポストに入れた直後スタートダッシュと同時に手を引かれてずるりと後ろにすべった。
すべっただけならまだしも、後ろにいた跡部くんが避けたので地面に後頭部直撃。

「ぐぎゃっ!」
「色気のねえ声だ」

手を引いて、さらに避けてこの言い草である。
白菜なんかじゃない、跡部様だ。俺様跡部様。
後頭部の痛みに涙目になりながら、私は起き上がった。

「なんなんですか…もう…」
「昨日の事で話があってな」
「私はないです…」
「俺様がある。理由はそれだけで十分だろ、あーん?」

…俺様理論マジ半端ないです。

「…ではお話どうぞ」
「ああ」

もう反論する気力はなく、跡部くんに発言を促した。
まあ彼は、促さなくとも話すのだけど。
叱ったことについて文句言われたって謝らないぞ、と意気込んだ。
だが。

「…俺が悪かった」

彼の言葉は、謝罪のみだった。

「え、」
「無神経なことをしたと思っている」

こめかみを抑えてそう言う跡部くん。
きっと彼のプライドは、がた崩れしているんだろう。


それでも彼は、私に謝った。


…謝られちゃ、何も言えないじゃないか。
ばつの悪そうな顔のままの跡部くん。
ちらちら私の顔色を伺う姿は、年相応の臆病さと子供らしさを感じる。
まるで母親に怒られたときの子供だ。

急に親近感が湧いて、頬が緩む。
私の表情を見て、跡部くんはびっくりした風になった。
かわいい。
目がもう、「怒らないのか?」と語っているのだもの。

「ふふ、怒らないよ跡部くん」

跡部くんはさらに驚いた顔になり、そうか、とどもりながら返事を返してきた。


そして跡部くんがお詫びだと、新聞配達を手伝ってくれた。
彼は俺様なのが玉にきずだが、かわいくて優しい人だと思う。



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