「…断れなかったなんて激ダサだぜ」
「ごもっとも…」
結局コート内のベンチまで連れてこられた私は、宍戸くんと話していた。
彼は私に呆れながらも、頭を撫でてくれた。
私は宍戸くんのこういうところが好きだ。
「で、どうすんだ?入るのか?」
「いや…今のところそんなつもりはないよ」
「ふーん」
無理に会話しようとしなくていい、心地いい空間だった。
一人にやけていると、宍戸くんが思い出したように言う。
「そういや、傘返ってきたか?」
「うん」
「お前未だにテルテルボーズつけてたんだなあ。すぐわかったぜ」
からりと笑う彼に、私もついつられた。
そしてそんなまったり感を打ち破る一声が。
「あ!能勢川だ!」
芥川くん。
元気いっぱいの彼は、どうしたのとか遊ぼうとか、相変わらずのおしゃべりさんだ。
きゃっきゃとはしゃぐ芥川くんを見ていると、宍戸くんが耳打ちしてきた。
「お前、ジローと仲良くなったのか」
「いや、傘の件で会話したくらいだよ」
まさか名前を覚えてもらっているとは。
それっきり忘れられたと思っていたのに。
「二人でこそこそ話すなんてずるいC〜!俺も混ぜて!」
「うわっやめろジロー!」
「わっ!」
ぐいっと私と宍戸くんの肩に腕を回し、引き寄せる芥川くん。
勢い余って、私と宍戸くんは頭をぶつけてしまった。
「いでっ…!」
「ったあ…!」
私はその場にうずくまり、当たったところをさする。
宍戸くんは怒鳴りながら、芥川くんとおいかけっこを始めた。
芥川くんは芥川くんで、走りながら謝っている。
こんなにフリーダムで大丈夫なのかテニス部。
「お嬢さん平気か?」
そう、こういった気遣いのできる常識人が必要…、
…ん?
「……お、おじょうさん?」
「ん?どないしたん」
お嬢さんなんて初めて呼ばれた。
この人も、変人の類か。
「平気です」
とりあえずそう返事して、ベンチに座り直す。
関西弁でメガネをかけたその人はしばらく私を物珍しげに見ていたが、跡部くんに呼ばれて向こうへ行った。
テニス部は変人の集いなんだろうか。
個性の主張が激しすぎる。
まあいい人たちなのは確かなのだけど。