梅雨入りからしばらくたった土曜日、私の家に思わぬ来客が。
「こんにちはーっ!」
何故か玄関に、芥川慈郎くん。
「え、えっ」
「こないだは傘貸してくれてありがとー!やさCね!」
うろたえる私なぞお構いなしに、傘を突き出す芥川くん。
てっきり返ってこないと思ってたので、今更感がすごい。
「…どうして私のって…?」
「宍戸に聞いたらね、テルテルボーズ吊り下げた傘なんて能勢川しかいないーって!」
宍戸くん情報か。
そう言えば私の傘にツッコミを入れてくれたっけ。
何故てるてるぼうずを吊り下げるのかは、雨が嫌いだから早く止むようにと。
「あと、傘貸すなんてちょいダサだぜって」
そ、それは蛇足なんじゃないかな!
でも激ダサじゃなくちょいダサにしてくれたところに、彼の優しさが滲んでいる。
「返すの遅れてゴメンネ!」
もっかいありがとー、とはにかんだように、芥川くんは笑った。癒される笑顔だ。
彼がこんなにいい子だったとは。
知らなかった自分が悔やまれる。
しかしそこで、ふと思う。
どうして彼は私の家をしっているんだろう。
「芥川くん、何で私の家の場所が分かったの?」
「跡部!」
そんな端的な言葉で理解してしまう自分が怖かった。
私がいかに跡部くんを超人視しているかの表れだ。
「能勢川の住所なんてお見通しだぜ」と笑う彼が想像できる。
「そう…それはよかったねー…」
「うん!お陰で傘返せたC!」
終始はしゃいでいた彼に温かい目を向けていると、いきなり芥川くんが慌てて走り出した。
どうしたのかと聞けば、部活に遅れる、だそうで。
…もうお昼を過ぎているから、遅れているどころの話じゃないよ芥川くん。