時は流れ6月になった。
あのじめじめとした梅雨がやってくるのだ。
私は雨が好きではない。
毎日カッパを着て配達しなければならないし、新聞もビニールに包まねばならない。
まあ新聞社の厚意というやつだ。
やるのは私なのに。
しかしそんな理由でさぼるわけにもいかない。
働いている身の義務なのである。

「ふう」

ビニールに包み終えた新聞を手に、私は配達に向かった。


さて配達が順調に進んだのはいいが、次は跡部くん宅だ。
何故か彼は毎日ポストの前に立っているので、非常にやりづらい。
それでも配達する時間をずらさないのは、少々彼に興味があるから。
跡部くんは会う度に、私とよく話してくれるのだ。

「来たか、能勢川」

でもまさか、傘をさしてまで立っているとは。
私は跡部くんを甘く見ていた。

「今日は載ってるか」
「……はい」

そうなのだ。
最初の詩から数ヶ月たったというのに、撤回宣言をさせられた所為で定期的に載るようになったのです。

「そうか、ならいい」

満足げに頷く跡部くん。
喜んでくれるなら、悪い気はしない。
宍戸くんとも良い距離を保てているし、そう目の敵にせずともいいか。

「…雨仕様か、このビニールは」
「サービス精神です」
「そうか」

そう言って微笑む跡部くんは、柔和な雰囲気を醸し出していた。
雨の中佇む美人というものだけで絵になるのに、微笑まれたなら美しすぎる。


彫刻のような麗しさにどきまぎしながら、私は配達作業に戻った。
彼の美しさは凶器だと思う。



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