ざああ、と行き場を無くした波の音は冬の海に響いた。昔みたアニメのキャラクターのセリフに「あの音は貝が海に想いを寄せてる音だよ」なんてセリフがあるけれどこのゴミだらけの汚ならしい海そんな音ありはしない。所詮おとぎ話の世界の話なのだ。そう考えると俺の中の非現実的な夢がガラガラと崩れていくような気がした。
冬の澄んだ空にポカリと浮かんだ太陽の日差しが杏の橙の髪を照らした。手入れの行き届いた綺麗な髪は日差しでキラリと輝いている。ひゅう、と北風が吹き背筋が震えた。そんな中杏は靴下を脱ぎ波打ち際で波と戯れている、俺には彼女が寒そうにしか見えなかった。
寒がり杏がこの時期に海に行きたいなんて可笑しな話だがあえて理由は聞かなかった。大体理由はわかったから。
杏は強がりだ、俺も人の事は言えないが俺以上に。彼女は人前で絶対泣かないのだ。それが強さで無いことを杏は知らない。強さがどんな事かなんて俺も良くはわからない。
「ねぇ晴矢」
「あ?」
「コーンポタージュ」
「ったく…人をパシリに使うんじゃねぇよ」
「いいじゃん何もしてないんだし」
「チッ…」
杏から百円玉を二枚受け取り近くにある自販機へ向かった。寒さに加え先ほどまでカンカンだった日差しは陰りどんよりとしてきた空に足取りが重くなる。こりゃ雨降るんじゃねぇの…。なんてことを思いながら歩いていると自販機の前まで辿り着いていた。コーンポタージュを二本買い歩いているとポタリとほうに冷たい感触。空からは大粒の滴がポタリポタリと落ちてきていた。舌打ちを一つしてパーカーのフードを被り走る。元いた場所まで戻ると杏は膝を抱き抱えうずくまっていた。
「帰るぞ」
杏のほうに缶を宛てると驚いたようにビクンと肩を震わせこちらをみた。杏の目は赤く腫れている。
「もうちょい…」
「風邪ひくだろーが」
そう注意しても杏はそこから動こうとしない。はぁとため息をついて隣にしゃがみパキ、と缶のプルトップを上にあげた。少し冷めたそれをずるりとすすると濃厚な味が口一杯に広がった。

「馬鹿だよ、私」
杏の掠れた声が砂浜に吸い込まれる。
「あんなに好きだったのにさ…馬鹿、掴みかけたあの人を自ら手放すなんてなにやってんだろ…」
「ばか…みたいじゃんか…」
そう言って肩を震わせる杏を慰めることも出来ずただコーンポタージュをすすることしか出来ない俺は彼女を好きでいる資格すらない。ふと耳に入ってきた音は叶うことのない思いを海に寄せる貝の声だった。

  ぬ
  る
  さ
  に
  う
  か
  ぶ




南雲と蓮池
title 爪
大山こと大山さんに捧げます…!遅くなってすいません…。
一応失恋した杏ちゃんとそんな杏ちゃんを好きな南雲…を…書きました。序盤のアニメのキャラクターは楽しいムーミン谷のスナフキンと言うキャラクターのセリフです。
5000hitと10000hit本当におめでとう!これからも宜しくお願いします!
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テーマ「人外ファンタジー」
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