※ ゲームネタバレ













練習を終え、大きく欠伸を一つして宿舎に戻ろうとした時の事だ。目立たない所に立つ銀杏の木から除く人影に目を細めてみる。

そこには懐かしいひょろりと高い背に目を疑った。
ゴーグルを外し手を離すとカツリと音を立ててゴーグルは重量に従い落ちていく。
目が痛くなる程何回も擦りってみても、確かにそこにその人は、変わらない無表情で立ち尽くしていた。
そう、すい。そう言おうとしても喉は掠れ、声が出ない。
小走りで近づいて、総帥の手を取った時、氷の様に冷たいその手に現実を突きつけられる。そうだ、この人はもう。

「総帥っ」
総帥は表情一つ変えず、俺を見つめた。
そんな総帥の冷たい、皺の深い手を必死に握りしめても、総帥は握り返してはくれない。
握り返せないのかもしれない。
気づけば目からはポタリポタリと涙が溢れ落ち、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
汚い顔を総帥に晒してしまった。
「ごめんなさいっ…総帥…俺はっ…俺はっ…」
汚く泣きじゃくりながら、声帯から必死に声を絞り出してみた。言いたい事は半分も伝わらない。
今まで敬い、恨み、また敬い、愛した総帥に、俺は何一つ伝えられられない。総帥、しゃくりを上げながら名前を呼び続ける。俺は何て無様で滑稽なんだろうか。
「鬼道有人はそんな顔はしない」
ふと聞こえた懐かしい総帥の声に顔をあげる。その声は確かに総帥の声だった。
「鬼道有人は、いつも自信にみちあふれた、清々しい顔で無ければならない。」
「総帥」
「私などいなくとも、私の最高の作品であるお前は、いや、私の最高の教え子であるお前は、」
「総帥」
「鬼道、お前は」
「鬼道ー!夕飯だぞー!」


気がつくと残っていたのは、ふわりとほうを撫でる夕暮れの秋風と銀杏の葉だけだった。

「泣かないで下さいよ、俺の知ってる総帥は泣いたりしません。」
ぽつりと呟き、土の上に落ちたゴーグルを拾い砂を払うとゴーグルを付け直し、宿舎への歩き出した。



影山と鬼道


title にやり

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