「遊園地に行こうか」
ヒロトが部屋にやってきてそう言ったのは、夕方に近くなった時の事だ。その日は練習も無くて特にやる事も無かった為別に断る理由は無いのだが、合宿所から一番近い遊園地まででも最低二時間は掛かる。つまり着くのが夕方になってしまうのだ。
その事を言おうとしたらがしりと手首を捕まれ、机に置いてあった俺の財布と携帯をエナメルの鞄に詰めて俺の肩に掛けさせるとずんずんと歩いていった。
ヒロトはいつもは他人優先で自分の事はそっちのけな癖にたまに凄く強引なのだ
。それをわかっていたから特に何か言う事もせず、素直にヒロトに従う事にする
。それに、ヒロトが強引な時は必ずと言っていい程理由がある。
電車を幾つか乗り継いで、着いた時は案の定辺りは青紫に染まっていた。メリーゴーランドのイルミネーションが良く映えていた。夕方の遊園地は昼間とは違っ
た、大人の雰囲気を醸し出している。
「乗るかい?」
「いや、ジェットコースターがいい」
「いいよ」
ジェットコースターにコーヒーカップ。バイキングにゴーカートなど、大まかな
乗り物を制覇した時にはもうすっかり辺りは暗くて、閉園まで一時間を切ってい
た。
閉めはやっぱりあれだろう、ヒロトの手を引っ張ってお目当ての乗り物の元へ向
かう。
人も少ない為、並ばずに乗ることが出来た。
「最後に観覧車だなんて、ロマンチストだね。緑川は」
「いいじゃん、カップルって感じでさ」
上へ上へと上がって上がっていく観覧車に揺られながらヒロトは窓から上を見上
げていた。
「何見てるの?」
「星だよ」
「星?」
「そう、綺麗だよ。」
普通観覧車に乗ったら上ではなく下を見るものだと、俺は思っていた。小さくな
っていく人々や建物を見るのが好きだった。
暗くてヒロトの表情は良く分からないが、きっと楽しげな顔はしていないだろう

試しに窓から上を見上げて見るとダイヤが散らばったような綺麗な星空が広がっている。
それに引き込まれてしまいそうな気分になった。
「ごめん、付き合わせて」
ふとヒロトの声がして、ヒロトの方に目を向ける。平気だよ。と首を振るとヒロ
トは俺の手の上に自分の手を重ねてくる。ヒロトの手は冷たかった。
その手の冷たさからか、何となくヒロトは寂しいんだろうな、と思った。
ヒロトのほうに唇を押し付けて見るとヒロトはその形の良い唇で何かを象る。声になっていないそれを、俺はわからなかった。




基山と緑川
title にやり

ツイッター診断で出たお題を元に書いた物
ヒロトが何か悩んでるのに気づいてあげられないのが辛い緑川。


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