死ネタ




「今年も夏が終わる」
毎年、夏が終わる最後の日に彼に会いに行く。
彼が死んでもう何年と言う年月が経ってしまった事が妙に寂しい。彼が生きてい
た時の証を覚えているのは果たしてこの世に何人いるのだろうか。
不思議と、会いたいとは思わなかった。
彼が死んで、一年程は思い出して泣く日も少なくは無かったが、時間が心を癒し
てくれる、なんて案外当たっているものだ。
スーツの黒が照りつける太陽の光を吸収し、体温を上げた。ワイシャツに汗が染
み込んでいく。
近くの花屋で買った秋明菊を、石段の上に置いて静かに目を閉じる。秋がくるよ
、心の中でそう呟いた。
そして大きく息を吸い、口を開ける。
「結婚、するんだ。」
自分以外誰も居ない為、当然返事は帰ってこない。その代わりか、木がざわりと
揺れた。
その後も、彼に話しかけるように相手がどんな人だとか、昔の思い出をベラベラ
と喋ってみた。いつの間にか夕刻になっていた。
ふと風がほうを撫でる。彼は、今幸せなのだろうか。笑ってるのだろうか。
最後まで身勝手だった私を許してはくれるのだろうか。

「もう少し年をとったら、何処か遠くにいこう」
「遠くって…何処にいくんだよ」
「さぁな、私と君でひっそりと暮らせる場所だ」
「…お前はいつも唐突すぎるよ…」
「でも、悪い気はしないだろう?」
「まぁな…」


いつ話したかも忘れた会話が能力に過る。ふとつ、と汗では無いものがほうをつ
たっている事に気づいた。
がくりと膝を折って地面に顔を押しつけると土の匂いと冷たさが妙に心地よくて
、涙が止まらない。
蛇口を捻ったかのように流れる滴が土の色を濃くしていく。
あんなにも愛していた彼への、想いが消え失せていく。そんな事実が堪らなく辛
い。
秋明菊の甘い匂いが、秋と別れを告げていた。




涼野と(南雲)
title にやり
秋明菊の花言葉は「薄れゆく愛」
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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