久遠とヒロト
「偽善者」
彼女に向かって自分でも驚く程低いトーンでぼそりと呟く、すると彼女は振り向いていつもと変わらない笑顔を俺に向けた。
彼女は偽善の固まりだと思った。
皆に同じように笑いかけ、柔らかい優しさで包み込む。生母マリア気取り?馬鹿みたいだ。
薄っぺらい優しさを与えられた所で何か変わるわけではないのに、彼女のそうゆう所が堪らなく苛立つ。
「だから何ですか?」
冷たかった、氷のように冷ややかなその声に背中に氷を入れられた時のような寒気が走った。
「可哀想なひと、そうやって人間を悲観的にしか見れないんですね。あの人の一番になりたくてもがく貴方を見るのはとても滑稽ですあっはっは、皆の前でいい顔をする私が憎たらしいんですよね単純だわ、可哀想で女々しいひと。所詮愛されたいだけでしょう?」
ぴたりと彼女の俺に似た、冷たく透き通るように白い手がほうに触れる。
「私は偽善者だから貴方も愛してあげます」
彼女も俺も可哀想なのだ。



セインとリカ
「ウチ、好きなひとにふられたんや」
生け贄となる筈の女はぼそりと呟いた。
誰に話しかけているのかはわからない、でもここにいるのは私と女だけだ。でも女は私に話しかけるのではなく壁に話しかけるように、気だるそうに声を出していた。
思えば何故私はこの女を選んだのだろう。
他にも地上に女は千といるのに、その中からこの口調も振る舞いも下品な、浦部リカを選んだ。
好きな人にふられた、経験は無いが一応意味だけは把握している。
愛と言うのはとても純潔で美しいものだと天空では昔から言われているが私は今までそれが理解が出来ていなかった。
でもこの女の悲しそうな目を見ていると胸が締め付けられ、この女の笑顔を見たいと思った。
「なぁあんた天使なんやろ?」
「天空の使徒だ」
「まぁ細かいことはどうでもいいわ、あんた人を愛したことある?」
「…」
「いいでぇ人を愛するっちゅーことは、それを拒否された時の悲しみは半端ないけどなぁ」
そうか、女は、浦部リカは愛するものに愛されないのか。
愛するものが他のものと愛し合うのを見なければいけないのか。
ならば
「私が君を愛す、だから君も私を愛せ」
そういって引き寄せると浦部リカは泣いていた。



佐久間と小鳥遊
「次郎ちゃん」
不意に後ろから聞こえた下の名前に振り向くとそこには可笑しな髪型の小鳥遊がムカつく顔でたっていた。まぁ俺をこんな風に呼ぶのは一人しかいないのだが。
「次ちゃん付けやったら女だからって容赦しねぇからな」
「今までは容赦してたんだ」
ケラケラ、性格の悪そうな笑い声で小鳥遊は笑った。その髪引きちぎってやろうか。
「あ、不動」
小鳥遊は興味を俺からトイレから帰ってきた不動に向けたらしく、たったっと小走りで不動に近づき不動のモヒカンを引っ張っていた。
小鳥遊が不動を好きなのは小鳥遊の行動や振る舞いですぐにわかった、不動が小鳥遊の事を好きなのも不動の行動や振る舞いですぐにわかった。つまりどちらかが思いを伝えればすぐにカップル成立、めでたしめでたし。
でもあいつらは人一倍素直じゃないからああやって話ててもすぐに喧嘩になる。
だから付き合うとしてもそれは少し先の話になるだろう、二人とも馬鹿だ。
「練習始まるぞ」
そんな二人の中に割って入るのは最早俺の日課となっていた、要するにお邪魔虫とゆうやつ、何故そんな事をするかって?それは俺が小鳥遊を好きだから。


鬼道と財前
ヨーロッパの昔話や世界史を連想させる城のような建物、日本には似つかないこの建物でとあるのご令嬢誕生パーティーと称したダンスパーティーが開かれていた。
ワルツは昔父さんに教えて貰った事があるから大体踊れるがなんせ周りは自分より年上の女性ばかりだ、リードするなど出来るわけがない。
踊りの輪から外れぼーっとくるくると回る人たちを見ていると明らかにぎこちない踊りをする女性が目に入った。見たことのある顔だがトレードマークになっている帽子はつけてないし、桃色の髪の毛は高い所で団子にされ歩くだけでジャラリと鳴りそうな髪飾りがついていた。
シルク独特の光沢を放つ膝下あたりまでのドレスに細いヒール、普段の彼女からは想像も出来ない恰好に一瞬本当に彼女か疑ったが、ぎこちない踊りですぐに彼女だと確信が持てた。リードしている男性は中は呆れている。
なんだか少し苛立った。

気がつくと俺は小走りで踊りの輪に入り彼女の手を引いて走り出していた、「ちょ、」と言う彼女の言葉も聞かず建物から出る。ひゅう、と吹く冬の冷たい風が身を掠めた。
「あんたっ…鬼道…?」
ハァハァと荒い呼吸をしながら彼女は訪ねた。確かに今日はドレッドをおろしているし、ゴーグルではなく眼鏡を掛けているからわかりづらいかもしれない。
「…なんだよ急に…」
「ぎこちないワルツを見ていたらこっちが恥ずかしくなった、総理大臣の娘ならワルツの一つ踊れなくてどうするんだ」
「うう…うるさいなぁ!!あたしああゆうの苦手なんだよ…こんな恰好で忙しく動くなんて無理だろ普通…!」
はぁ、とため息をつき片手を差し出す。
「……一回で覚えろ」
「は…?」
「俺が教えてやる…」

彼女から目をそらし素っ気なく言うと彼女は乱暴に手を取った。

さぁダンスパーティのはじまりだ。



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