※気持ち十年後くらい


昔、大好きな人がいたんだ。
緑川は唐突にそう切り出した。
緑川リュウジ、彼は最近入社してきた会社の後輩で、プライベートではタメ口で話す程度に仲が良かった。
家に遊びに来ないか、と言われこうして世間話をしていた所である。
しとしとと窓を打つ雨といつもより少し低めで落ち着いたリュウジの声が妙にマッチしている、相づちを打つ暇も無くリュウジは続けた。



俺中学の頃サッカーをやっててさ、その中学の先輩だったんだけど優しくてね。芯が強くて、憧れだった。
俺がサッカーを嫌いになりそうになった時は傍にいて励ましてくれて、一緒に夜遅くまで練習に付き合ってくれて。
そのくせ自分は悩み事を全て自分の中で抱え込んじゃって、サッカーは強かったけど少し弱い人だった。
付き合ってたのかもわからない微妙な関係が二、三年続いてたんだ。いやセックスとかは普通にしてたけどお互い告白もしてなければ愛を詠うこともない、本当よくわかんない関係。
それで七年前やっとお互いがちゃんと気持ちを伝えて付き合うことになったんだけどさ、でも彼は色々やっぱり大変だったみたいで、事故、いや事故じゃないな。彼は赤信号なのに横断歩道を渡って車に跳ねられた。要するに自殺だね、その頃ちょっと学校でもうまくいってなったみたいで、疲れちゃったみたい。




そこで緑川は話を止めた。
小説みたいな話だと思った、そんな話が現実で起こりうることに驚いた。それが率直な感想。
緑川は既に冷めて不味くなっているであろうコーヒーに手をつけすすった、案の定不味そうな顔をしていた。
「ごめん、変な話してヒロトさんには関係ないのに」
「いや、いいよ。でも凄い話だね、その人は今どうしてるんだい?」
「元気でやってる、でも」
「でも?」
「事故が原因で記憶を無くしちゃったみたいで」


カチャリ、緑川のもっていたコーヒーカップが床に落ちパリンとガラスの割れる音が響く、クリーム色のカーペットにはじんわりとコーヒーが染み込んでそこだけ茶色く染みになった。
「あーあやっちゃった、布巾と掃除機持ってくるね」
そう言って緑川はペタペタと足音をたてながらリビングを後にした。


俺が事故にあったのも丁度こんな雨が降っていた日らしい。


基山と緑川

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テーマ「人外ファンタジー」
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