その日はたまたま、朝時間が無くて髪の毛を結ぶのを忘れていた。
円堂は1日俺と口を聞かなかった。多分意図的にじゃなくて自然にだと思う。
主に円堂と喋るのは部活と帰るときだからまぁ授業などで喋らない事は良くある事だから特に違和感はなかった。
放課後部活に行こうと誘うと円堂はこくりと頷いただけで、目を決して合わせようとしなかった。そんな態度をとるのは俺にだけで、豪炎寺や鬼道にはごく普通の、いつもの円堂だった。
それが凄く気がかりだったがそんな理由で練習に集中出来ないなど馬鹿げた事は出来ないから一旦頭の片隅に追いやる。
「いいぞ風丸!」
練習中の円堂は俺に対してもいたって普通だった。
徐々につもる不安と苛立ちで頭がぐるぐるする、気分が悪い。
部活も終わり、何かしたかと円堂に問い詰める為引き留める。
「円堂!」
円堂の肩がぴくりと動く、聞こえないふりをしているのか一行に此方に振り向かない。
もう一度名前を呼ぶと振り向いた。
小走りで近づいて口を開く。
「なぁ、何で俺の事避けてるんだ」
「そんな事ないって」
「あるだろ」
ぴしゃりと言うと円堂は口をつぐんだ。やはり何かあるのか。
はぁとため息をついて腕を組む。
円堂は珍しく難しい顔をして、言おうか言うまいか迷っているようだった。
そして観念したのか口を開いた。
「…いや、風丸の髪型がさ…」
「え?」
ポニーテールにしていないのに違和感を感じて避けたのか、そんなのめちゃくちゃだ。
「その髪型見てると思い出しちゃうからさ…だからなるべく話さないようにしてたんだ…ごめんな」
「あ…」
円堂の言葉に数ヶ月前の自分を思い出す、勝利に貪欲になり力を求めた成れの果て。
あの出来事は俺の中でも思い出したくない過去の一つとなっていたが円堂の中でもそうだったらしい。
まぁ当たり前だ、何年も一緒にいた幼なじみに裏切られたんだから。逆の立場だったら俺もトラウマになってた。罪悪感で押し潰されそうになりながらも何とか平然を保つ。
「朝時間がなくてさ」
「そっか…」
鞄からゴムを取り出してそれを口にくわえる。髪の毛を適当に纏めて上にもっていきゴムで結ぶ。
すると円堂は安堵の表情を見せている、そしていきなり引き寄せられたと思ったら強く抱き締められた。
「え、円堂?」
「もう、居なくならないでくれ」
普段よりワントーン低い声を耳元で囁かれればほうはみるみる熱みを帯びる。いきなりの事に思考がついていかなかったからとりあえず抱き締めかえした。
円堂の中でトラウマに成る程あの出来事は大きく、俺と言う存在も大きい。
その事実が凄く嬉しくて当たり前だろ、と言う思いを込めてぽんぽんと赤子をあやすように円堂の背中を叩いてやるとぷっと吹き出す声が聞こえた。それにつられて笑う。
いつの間にか藍色に染まっていた空に笑い声が吸い込まれた。



円堂と風丸

title にやり
まぁ要するにお互いがお互いに依存してる円風が好きなんですよ



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