同棲パロ


狭い、古臭いアパートの一室で過ごす休日程つまらない物はない。
本当はヒロト出かける予定だったのに、ヒロトは前日になってなにか思い立ったかのようにキャンセルをして一人何処かへ出かけてしまった。
本当は何処へ行くか問い詰めようかと思ったのだがなんだかそれも億劫で結局一人ぽつんと取り残された訳だ。時計の長い針は十一を指している、まだ今日は始まったばかり。得にやる事もなく、本棚から読みかけの本を取り出してパラパラと捲ってみるが本を読む気力すら失われていた。
ゴロリとフローリングに体を預け、目を閉じると脳裏にヒロトのニヤケ顔が浮かび、私の精神を逆撫でる。
柄にもなく、私は今日を楽しみにしていた。少ない小遣いを叩いて新しいワンピースも買ったし、何処へ行くか、頭で何時間も考えた。それなのにこれだ、帰ってきたらどう懲らしめてやろうか。


はあ、とため息を一つ吐き時計を見るといつのまにか時計の長い針は十二を指していた。
腹の虫がぐうと鳴いて空腹を知らせる。
朝から飲まず食わずだった事を思い出した。
やかんに水を入れてコンロに掛け火をつける。棚からカップラーメンを取り出してフタを開けた。栄養を考えればカップラーメンなんて邪道なんだろうがそんな事今はそうでもよかった。
それだけ、私の気力は底を尽きていた。
ピーとお湯が沸く音がして、火を止める。カップラーメンにお湯を注ぎフタを閉める。
このラーメンが出来るまでの三分を普段の三分より長く感じるのは私だけではないだろう。
机をタオルで拭いて冷蔵庫から麦茶の入った入れ物を取り出しコップに注ぐ。
箸を口にくわえて片手にコップ、片手にカップラーメンをもって机まで運ぶ。
前に箸を口にくわえてヒロトに怒られた記憶がある。いや、ヒロトの事などどうでもいい。
机の上に持っていたものすべてをおいて、座る。
カップラーメンのフタを開るとたちまち湯気が黙々と出てきて醤油の臭いが鼻を突く。
その臭いに食欲を掻き立てられ、ラーメンをずるる、と音を立て啜った。
テレビのリモコンに手をかけて、電源ボタンを押す。バチンとまだアナログのブラウン管のテレビ独特の音がして
テレビがつく。土曜日の昼間だやっている番組はつまらないバライティかニュースくらいだった。
テレビを見ながらラーメンを啜っているといつのまにか容器は空になっていた。
麦茶を飲み干してコップの中に箸を入れ流しまで持っていく。
水道で適当に容器を濯ぎコップを箸を洗ってしまい、リビングに戻った。

そして窓の外を見ると、さっきまで悔しい程晴天だった空が灰色に染まっていてポツリポツリと雨音がきこえていた。
通り雨だろうか、洗濯物を出していなくて良かったとホッとする反面、やはり気になるのはヒロトの事だった。私の記憶が正しければヒロトは傘を持って出かけていない。
机に置いてあったアザーブルーの携帯に手を掛け、着信履歴からヒロトの番号を探し通話ボタンを押そうとしたところで手が止まる。
私との予定をキャンセルしてまで自分の予定を優先したんだ。
ずぶ濡れくらい当然の報いかもしれない。
でももしヒロトが風邪をひいたら…なんて二つの考えが私の脳内で言い合いをしていた。
開きっぱなしの画面は明かりが消え真っ暗になっている。
そんな時、携帯がせわしなく振動して驚きで携帯を落としてしまった。
慌てて拾い上げで画面を確認すると着信の文字と基山ヒロトの文字があった。
出ようか出まいか迷った末、結局出てしまう。
「あ、玲名?」
「…何だ?」
「今スーパーにいるんだけどさ、傘持ってきてくれないかな?」
「は…?スーパー?ヒロトの用事って…」
「うん、今日は俺が夕飯作ろうと思って、本当は玲名に内緒で行こうと思ったんだけどさ…この雨だし」
「べ、別に出かける約束をすっぽかさなくたって…!」
「ごめんごめん、なんか急に、ね」
「チッ…仕方がないな、近所のスーパーか?」
「うん、後傘は一つでいいから」
「死ね」
「死ねはひどくない!?」
ヒロトの嘆きに返事をせず、私は電話をきった。
急いで身支度をし、自分の傘をさして家を出た。
スーパーまで行く足取りがいつもより軽かったのは内緒。



ヒロトと玲名
Gemini様に提出させて頂きました。
隣=恋人で書きました。
ちゃんとお題に添えてるだろうか…。
素敵な企画に参加させていただき有難うございました。







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