きゃあ、体育祭の全体練習をしている時黄色い悲鳴が右隣の列から聞こえ、思わずそちらへ目を向けると、野次馬が何かを囲んでいた。
大丈夫?や保健室に連れていった方が…なんて声が聞こえたから、きっと誰かが倒れたのだろう。まぁこの猛暑だ、無い話ではない。
特に興味は無かった為、その場に体育座りをしたまま砂を指でなぞって暇を潰す。
「塔子ちゃん!大丈夫!?」
ふと野次馬の声の中で気になる単語を耳が仕留めた。塔子、まさか倒れたのは塔子なのだろうか。
立ち上がり、体操着のズボンの砂に付いていた部分をパンパンと叩く。砂ぼこりが中に舞った。
野次馬を掻き分けて、真ん中までくると案の定そこには塔子が寝そべっていて、綺麗な桃色の髪の毛が土の上に広がっていた。
塔子を揺さぶる女子をやんわりとどけて、塔子をひょいと持ち上げる。体制的にはお姫様だっこ、と呼ばれるものだ。
「亜風炉君…?」
呆気に取られた女子が僕に話しかけてきた。得意の笑顔で「保健室に連れていくよ」と言うとまだ女子は呆気に取られた顔をしていた。
確かにどちらかと言えば女子をお姫様だっこすると言うタイプじゃない。塔子じゃなきゃこんな事は絶対しない。実はこう見えても握力はある方だ。
昇降口まで来ると靴を脱いだ、両手が塞がっている為上履きは取れない。不服だが靴下で保健室までいく事にした。
長い廊下を早歩きで歩いて保健室の前までくると保健室のドアをノックしようと思ったが、また両手が塞がっている事を忘れていた。
行儀が悪いとは思ったが、足でドアを開ける。「失礼します」と一例すると先生でさえ呆気に取られた顔をしていた。
塔子をベッドに寝かせると先生は塔子の顔を見つめ、ため息をついた。
「多分、寝不足ね」
「寝不足…」
「ええ、目の下のくまが酷いもの」
少し顔色の悪い塔子の顔を見つめると、目の下にくっきりと深くくまが刻まれていた。
夜更かしは美容の大敵だと言うのに。綺麗な肌がもったいない。
寝不足で倒れるだなんて、そんなに寝てないのだろうか。
「暫く寝かせておけば平気よ、亜風炉君は授業に戻りなさい」
「…いえ、僕なら平気です。居させてください」
そういうと先生は半ば呆れた顔をして、「若いっていいわね」といって薄いカーテンを閉めた。
いっそのこと添い寝でもしてしまおうと思ったが、塔子に相当罵声を浴びせられそうなので辞める。
ベッドの近くにあったパイプ椅子に腰掛け、塔子を見つめる。
てっきり熱中症だと思っていた為、少し胸を撫で下ろす。
塔子の目じりにキスを一つ落とすと塔子は小さくうなり声を上げて目を薄っすらと開けた。
顔と顔の距離が1cmもない。塔子の手がバチーンと僕の顔面に飛んでくるのにそう時間は掛からなかった。
勢いでどさりと尻餅をつく。塔子かばりと起き上がって、声を張り上げた。
「…なんだよ!!気持ち悪いなあ!」
折角保健室まで連れて行ってやったと言うのに、なんて仕打ちだ。恩を仇で返された気分になる。
「気持ち悪いはないじゃないか!」
「う、うるさい!というか何で保健室に…」
「全体練習の時、倒れたんだよ」
「…で、お前が運んでくれたの…」
「そう、少しは感謝してくれよ」
そこまで言うと塔子は無言になった。
背中をさすりながら立ち上がると、塔子の顔は熟した林檎のように赤くなっていて可愛い。
色恋沙汰には縁がない塔子は普通の女子以上にシャイだ。
気がつけばチャイムの音が校内に響き、授業の終わりを告げた。
腹の虫が小さく鳴いて、次が昼食な事を思い出した。
自分とは違う腹の虫の鳴き声して、プッと吹き出す。
「教室に帰ろうか」
「言われなくても帰るよ」
「じゃあ、お手をどうぞ」
そういって手を差し出すと、物凄い力でバシンと弾かれた。
「きもい」
「神になんて事言うんだい」
「神なら今日の購買の限定パン買ってよ」
「どうしてそうなるんだい!自分で買いなよ」
「いやだ」
呆れ気味にため息を一つつき、ベットから出た塔子の手を握ろうとしたら思い切りチョップお見舞いされて、結局パンを奢るハメになった。



照美と塔子
さらさんに捧げます!

得に指定がなかったので思いっきり趣味に走りました…。
照美が報われないね…。ごめんなさい…。
書き直し、修正、苦情いつでも受け付けます。
相互ありがとうございました!これから宜しくお願いします^^
さらさんのみお持ち帰り可。

title にやり



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