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怪観察
ぶんどり様

 縄が絡まって動けない。ぶんぶん鳥はナマエを投げ縄で捕らえて離してくれなかった。
 足に絡まった荒縄がちくちくと痛い。それを訴えてもぶんぶん鳥はにんまり笑みを浮かべるだけで、やめてくれない。
「どうして意地の悪いことをするの」
 部屋から一歩も出られないナマエは、そろそろトイレに行きたかった。このまま足止めされているというのは避けたい。
 ぶんぶん鳥はそれを知ってか知らずか、ナマエの足にそろりと自分の羽先を伸ばす。そわりと撫でられて、くすぐったかった。
「ナマエをぶんどるのさ」
「私をぶんどってもいい事なんてないけど」
「ぶんどる事がいいことなんだよ」
「ぶんどる事は悪いこと。あと私、トイレに行きたい」
「それは失礼」
 縄が解かれて自由の身である。急いで立ち上がってお手洗いに向かうナマエの後ろには、ぶんぶん鳥がついてきていた。
 どうせ用を済ませたらまた縄で絡め取るつもりなのだ。
「ねえ、まだ?」
 トイレの外から声がした。早く出てくるよう催促をしているのだろう、ぶんぶん鳥の声だ。
 子供じみた独占欲でナマエを縛り上げるこの紫色の鳥は、きっとナマエに独占されたいという欲も持っているに違いない。
「まあだだよ」
 とっくに用事は済ませているのだが、便座の蓋を閉めて、流すことはせずにじっと外の様子を伺ってみた。
 とすとすと足音が離れては近づく。おそらくトイレの前をぐるぐると歩き回っている。時折、ナマエ、と名前を呼んでくるので、つまらなかったり寂しかったりもするのだろう。
 じゃっと水を流した。扉の外で妖怪が張り切る気配がする。つい、笑ってしまった。
「あのね、ぶんぶん鳥。私これから勉強しなきゃいけないから、縄で縛らなくてもしばらく部屋に篭りきりだよ」
 扉を開けてそういうと、縄をぶんぶんと振り回しながら張り切っている紫色の妖怪が、張り切ったまま首を横に振って答えた。
「こっちを見てくれなきゃ駄目だから、やっぱり縛るよ」
「自分勝手な」
「妖怪はだいたい自分勝手なんだ」
 それぇ、と気が抜ける声で投げ縄が飛んでくる。それを腕で受け止めて、ナマエは笑いながら部屋へ戻っていった。
「私の膝に乗ってていいから、勉強が終わるまで待って」
「本当は参考書をぶんどりたいんだけどな」
「欲しいの?」
「ナマエから遠ざけたいの」
「駄ぁ目」
 ふかふかしたクッションのような鳥の帽子がナマエの頭に乗せられた。きっとぶんぶん鳥なりの「頑張れ」というエールなのだろうと理解して、ナマエはぶんぶん鳥をくしゃりと撫で回した。
 気持ちよさそうに目を細める妖鳥を膝に、参考書をめくってノートに取る。
「早く終わらせてよね」
「はいはい」
 ふかふかしたクッションのような鳥が言うので、ナマエは少し微笑んで返し、鳥の頬に口付けを落とした。
 こうすると満足して大人しくなってくれるのだ。