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ろづ

「どうして、こう、物を壊すのですかね、あなたたちは」
 腕組みをして仁王立ちするナマエを前に、タイガマルとロウガマルが緊張の面持ちで正座している。
 別に人間の小娘一人が仁王立ちしていたところで迫力なんてものはない。……いや、あるかも知れない。
 チーム・アキラのマネージャーは時々びっくりするくらい迫力があるのだ。あれは敵に回してはいけない。流石のトラブルメーカーでも分かる。
 話を本筋に戻そう。迫力のない人間の腕組みと仁王立ちでどうして緊張しているのか、である。
 怒った様子で二人を見ているナマエの後ろを見ればすぐに分かる。ギンザンだ。まったく同じポーズで此方を撃ち殺す気満々の目つきをしているのである。怖い。ロボットだが故障を通り越して本気で死を予感しそうだ。
「聞いてます?」
 むすっとした声で我に返った二人が、慌ててナマエの方を見る。
 足元には、作るのに半年はかかったというバトロボのメンテナンスキット……らしきもの、だった、っぽい、かも知れない道具が転がっていた。もちろんタイガとロウガが壊したのである。興味本位で引っ張ったり引っ掻いたり踏んだり蹴ったりぶん投げたりして。
「いやいや、俺様たちは、その……あ! 強度の検〜査〜を〜」
「していただけ……でござる! これが少々脆すぎただけ、でござるっ」
 表情をなくしたナマエが、背後に立つペガサスに顔を向ける。
「こう、申されておりますが」
「詭弁だ。惑わされるな」
「承知しました」
 二人の行動パターンを熟知してでもいるのか、実兄であるギンザンがバトロボリーグの決勝戦でも見せないような殺気のこもった眼差しを向ける。
 途端に視線をそらしてかいてもいない冷や汗を拭う真似までするのだから、腹立たしい高性能さだ。
「ま……また作ればいい、でござる」
 ロウガマルが小声でぼそりと呟く。
「部品を揃えるのだけで一ヶ月はかかるんですよ。制作費も馬鹿にならないし。誰が負担してくれるんです?」
 きつい口調で説教交じりに問いただすと、あ、いや、と詰まった声が返るのだから、そんな人間臭いロボットを開発できる教授は天才か何かなのだろう。
 頭にくるが。
「……ならば、もちっと安い素材でぇ、作ぅれぇばぁ、良〜い〜の〜で〜はぁ?」
 タイガマルが小声で、しかしいつもの抑揚はそのままにぼやく。
「バトロボのメンテナンスを充分に行えるパーツを吟味した結果がこれだったんですよ。安価にしてしまえば途中で事故が起こるかも知れませんけど、いいんですね?」
 いいんですね、とは、お前たちが実験台だぞ、という意味だろう。
 あー……と困ったような声で視線をそらしたまま呻くサーベルタイガーに、対話の場面でのみフルに発揮されるAIの使い方とは何なのか問い詰めたくなる。

「プ、プロフェッサァ〜!」
「ビッグバン……! 助けて欲しい、でござる!」

「あ! またそうやって先生に甘えて! 駄目ですよ先生、先生は何だかんだ言って二人に甘いんですから! 二人の方を見ちゃ駄目です!」
「甘やかす件についてはナマエと同意見だ。ダイクーン、席を外せ……こいつらを罰せられん」
 きゃー! だの、ひー! だの声が上がる。
 一部始終を見ていたダイクーン教授は、膝の上でスリープモードに入っているテンコンスリポンの甲羅を撫でながら、弟子とわが子が揃って自分にものを言うのに苦笑いを浮かべていた。
 タイガマルとロウガマルが本当に泣きそうな目をしているのが、更におかしい。
「もう、その辺で許してやりなさい、ナマエ……」
「あ! 先生ほらまた! そうやって甘やかして!」
「ダイクーン! 一度厳しくしつけてやらねば、こいつらは学習せんぞ!」
 二人の教育者(?)がぎゃんぎゃんと噛み付いてくる。
 騒ぎに乗じて二人の問題児がせかせかと逃げていく。
 待てこら、という怒号。プロフェッサーは許してくれたで候! という口答え。
 すやすや眠りこけるテンコンスリポンに優しい目を向けて、教授は一人呟いた。


さすが我が家だ