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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


ろづ
ロウガマルの場合

 狼と忍者がモチーフの彼の隣で、アゲハチョウと月夜がモチーフのネイムが静かに座っている。
 今日はネイムのコマンダーがダイクーン教授とバトロボについて議論を交わす予定らしい。部屋の中で多数の資料に囲まれながら話し込む二人が見える。ネイムとロウガマルは外で待機中だった。
「退屈……で、ござる」
 ひっくり返ったような語尾で、不満そうに唸る狼が刀を磨いてはちらちらと部屋の中を覗き込んでいる。
「私は、ロウガマル君と一緒にいるだけで楽しいけど……」
 俯きながら返すネイムに、ロウガマルは、ふぅん? と納得がいっていないような声をあげた。
「そんなに暇なら、何かお話しましょう?」
「話……ふむ、ならば大阪城か江戸城か……」
「お城のことは詳しくないかなあ」
 苦笑いで手を小さく振る。狼が途端にしょげたような顔をするものだから、焦ったネイムがロウガマル君の楽しそうな顔を見るのは好きだよなんて恥ずかしい事を言ってしまったのだが。
「軍事設備でありながらの造形美について語り合う友達が欲しいでござるぅ」
 ふて腐れるのに忙しいらしい忍者には、いまいち響いていないようだった。
「じゃあ、ネイム殿はどんな話ならしたいのでござるか?」
「え? あ、うーん、そうだな……こ、好みの子についてとか?」
「女子はそういう話が好きでござるなぁ」
 大方ロウガマルの好みの子は姫路城か二条城か熊本城かなのだろう。
 まあまあ、と宥めてコイバナとやらに花を咲かせようと、ネイムが口を開いた。
「ロウガマル君の好みのタイプって、どんな感じなの?」
 んー……と面倒そうな声が返る。考え中なのだろうか、難しい顔をして明後日の方向を見ている彼が、くにゃりと首をかしげた。

「拙者が地味な見た目ゆえ、少しばかり派手な感じだと良いかな、と」

 その時点でアゲハチョウと月夜モチーフのネイムはギリギリのような気がしてくる。今更ボディカラーを変えるわけにもいかないし、と悩むネイムに気づいていないのか、ロウガマルは更に付け足してきた。
「拙者をリードしてくれると、安心してサポートに回れる……で、ござる!」
 ネイムはどちらかといえば相手を支えるタイプである。これは望み薄かな、と困ったように笑っているネイムに、ロウガマルも困ったような表情になった。
「やはり、居ないでござるかな?」
「まだ、なんとも言えないよ。もう少し詳しく聞かせてもらわないと」
「左様か、うむ、それじゃあ」
 目を閉じて腕を組み、唸っているかのような低い声を出し始めたロウガマルの言葉を待つ。あまりに次の言葉までが長いから、つい家の中に目を向けてしまった。まだ話中のようだ。
「ええと……たまに偉そうにしはするけども、所々抜けてると、こう、可愛げがあるというか……あと、テンションが高いと、見ていて楽しい、でござる!」
「あー……そっかぁ」
 何だか、聞いていてもやついてくるものがある。
 見事にネイムとはま逆なタイプを好みにしているというか、思い当たる節があるというか。
「拙者と趣味が合うと尚のこと、好きでござるかなあ」
 見た目が派手で、ロウガマルを引っ張り、たまに偉そうだが抜けていて、テンションが高くて、趣味が似ている。
 ネイムは物凄く渋い顔になっていた。
 ネイムとは正反対な特徴を持つロウガマルの好みの誰か。その誰かの性別すらもネイムと正反対にすれば、見えてくるのは一人だけだ。

「ロウガマル君……それ、タイガマル君のことじゃない?」

「……うおぉ」
 ロウガマルの目が見開かれる。腹の底から競りあがってきたような驚きの声が低く響くいた。
 自覚していなかったらしい。
 思わずテンションが上がったのか、勢いよく立ち上がった狼の忍者が虎の歌舞伎口調のもとまで走っていく。取り残されたネイムがぽかんとそれを見つめていると、ロウガマルはタイガマルの肩を叩き、物凄く楽しそうにこう言った。
「タイガマル、タイガマル! 拙者の好みのタイプ、お主だったでござる!」
「なんとぉ!? わはははは!! お前も、あ、趣味が良いでぇ候!」
「ふははは! 結ばれない悲恋、でござるぅ!」
「かっかっかっか!」
 二人して大爆笑しているのが、何だか微笑ましい。
 まだ色恋沙汰には程遠かったらしい。色気もへったくれもなくただ大笑いしている彼らを見て、ネイムは小さくため息をついた。